Jonas Kaufmann(Ten)
Markus Brück(Bar)
Daniel Rannicles/
Chor und Orchester der Deutschen Oper Berlin
DECCA/00289 478 5678(BD)
かつて、同じタイトルの
CDを
こちらでご紹介していました。その時のレビューでは「どこをとってもすばらしいアルバムですが、
SACDでなかったことが唯一の欠点です。サイニー渾身の
DECCAサウンドを、いつかハイレゾで聴かせて下さいにー」と、エンジニアの名前をおやぢにして最後を結んでいましたね。そんな望みが、こんなに早くかなってしまうとは。
DECCAには、日本語も読めるスタッフがいたのでしょう。もちろん、
DECCAにとってはこれが最初の
BDオーディオでないことは、ご存知のはず。そう、
こちらでご紹介していたショルティの「リング」全曲を1枚の
BDに収めたものが、このレーベルの最初の
BDオーディオ、このころから、彼らは日本のユニバーサルに先を越されてしまったハイレゾ市場に、なんとか恥をかかずに再参入する道を模索していたのでしょう。一度見捨てた
SACDをいまさら出すわけにはいきませんから、あとは
BDオーディオに頼るしかありませんね(本当かどうかは、知りませんよ)。そこで選ばれたのが、その「リング」のマスタ
リングを担当したフィリップ・サイニーがエンジニアを務めたこのカウフマンのアルバムだったというのも、何かの縁なのかもしれません。
その「リング」の時に味わった驚きを、今回の
BDオーディオでも味わうことになります。あの時には、日本でマスタリングされた
SACDとも聴き比べていたのですが、それよりはるかに生々しい音が聴こえてきたのでした。今回はもちろん
SACDなどは存在していませんから、普通の
CDとの比較となるわけで、最初から問題にならないことは分かっていましたが、実際には、常々ハイブリッドの
SACDで
CDレイヤーと比べている時に味わうのとは桁外れの違いがあったのですから、これは驚き以外のなにものでもありません。
最初のトラックは、「ワルキューレ」の第1幕第3場、ジークムントのモノローグが始まるシーンです。柔らかいワーグナー・チューバのアコードに乗って低弦の上向アルペジオが静かに始まりますが、その低音には、まさに「リング」の冒頭のような充実感がありました。続くティンパニの「フンディンクのモティーフ」の締まりの良さ、このあたりで、すでに
CDのランクをはるかに超えた精密な音像が展開されています。そのモティーフはホルンに受け継がれますが、オクターブの上下の楽器がはっきり分かれて聴こえてきます。その合間に登場するバス・トランペットの「剣のファンファーレ」も、音色が
CDとは別物、とてもまろやかです。その直後に2小節だけ聴こえるヴィオラのパッセージは、完璧な音場感の中で聴こえてきます。そして出てくる、カウフマンの声の立体感といったら。
と、そんな風に、いちいち細かいことを挙げていったらきりがありません。要は、それぞれの楽器の音が精密な塊となり、それが一つ一つ立体感を主張して現れてくるのですよ。それは、ただの「音」ではなく、フルーティストの息遣い、ハーピストの指使いといった、楽器を演奏している人の姿までをも含めたものとして伝わってくるのです。
これは、間違いなく
SACDを超えた生々しさが体験できるものでした。ただ、
BDオーディオすべてがそれだけのレベルに達しているかどうかは、分かりません。現に、NAXOSやCAMERATAあたりから出ているものは、CDと比較してもこれほど劇的に違いが分かるというものではありませんでしたからね。とりあえず、これから出る
DGレーベルのものはどうなのか、確かめてみるつもりです。
この
BDオーディオの仕様は
24bit/96kHzですが、
PCM以外にもなぜか2チャンネルで
Dolby True HDと
DTS HD Master Audioが選択できるようになっています。これらはマルチチャンネル用のロスレス圧縮音源ですから、2チャンネルで聴くときには何のメリットもありません。現に、
PCM音源と聴き比べるとかなり平面的な音になっています。サラウンドではないのにこのような仕様を加えた意味が分かりません。
BD Artwork © Decca Music Group Limited