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ヴェルディ/オペラ変革者の素顔と作品
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加藤浩子著
平凡社刊(平凡社新書
683
ISBN978-4-582-85683-5



同じ「生誕200年」とは言っても、ワーグナーに比べたらヴェルディの扱いはかなり冷淡なこのサイトです。この傾向は、世間一般ではどうなのでしょうね。少なくとも、CDDVDBD)の世界では、「ワーグナー>ヴェルディ」という図式は厳然と存在しているような気がするのは、はたして錯覚なのでしょうか。ワーグナーの場合、初期の3作品はともかく、「オランダ人」以降の10作品についてはもれなく何十種類ものアイテムが簡単に入手できますが、ヴェルディでは26作品の中でそのような厚遇を受けているのはせいぜい11作品ぐらいのものではないでしょうか。その「11作品」というのは、あくまで私見ですが「マクベス」、「リゴレット」、「イル・トロヴァトーレ」、「ラ・トラヴィアータ」、「シチリアの晩鐘」、「仮面舞踏会」、「運命の力」、「ドン・カルロ」、「アイーダ」、「オテッロ」、「ファルスタッフ」です。宇宙飛行士の話はありません(それは「ライトスタッフ」)。例えば、序曲だけはたま~に演奏されることがある「ナブッコ」や「ルイーザ・ミラー」の「本体」を全部見たり聴いたりしたことがあるという人には、いまだかつて会ったことがありません。つまり、作品の有名度は、ワーグナーは7割6分9厘に対して、ヴェルディは4割2分3厘ということですから、ヴェルディの劣勢は明らかです。
そんな状況は、この本の出現によって必ずや是正されるはず。加藤浩子さんという方が書かれた最新のヴェルディ本、これはとてもバランスのとれた素晴らしいものでした。
構成は、ヴェルディの生涯と作品について語るという、何の変哲もないのですが、その視点が非常に新しいものであることが、最大の魅力です。最近では、その作曲家の作品の楽譜を徹底的に客観的な資料をもとに検証して、後の校訂や印刷の際に紛れ込んでしまった胡散臭い情報を取り除き、真に作曲家が楽譜に込めたものを明らかにしようという、いわゆる「批判校訂」の作業が、猛烈な勢いで進められています。オペラの世界でも、ロッシーニなどではその成果が見事に現れて、彼の作品に対する評価が劇的に変わってしまったのはご存じのことでしょう。ヴェルディの場合は、まだその作業は緒に就いたばかりですが、一部の批判校訂版はすでに出版されていますし、ヴェルディ作品での歌手の声についても、今までとは全く違ったアプローチが試みられるようになっているのだそうです。そのあたりの、今まさに「進行中」の最新情報が得られるのは、なににも代えがたいものです。
さらに、ヴェルディ本人の生涯や功績なども、従来の俗説ではなく、これもきっちり音楽学者によって「裏」の取れた「真実」のみが語られています。これも、今までは作曲家を「偉人」とあがめて、都合の悪いことはひたすら隠していた風潮がさっぱりと取り払われている現在の潮流に従ったものですね。ヴェルディの女性関係についての詳細な記述は、それだけでとてもドラマティックです。確かに、そのような真の人間像が分かった上で、初めてその作品に対する真の理解も得られることになるのでしょう。
そのような客観的で厳密な考証と並んで、著者自身の「主観」を前面に押し出している部分もあるというのが、この本の魅力を一層高めています。「今聴きたいヴェルディ歌手」という一章が、そんなところ、ここでは、著者の好みがもろ全開で、とても素直なコメントが楽しめます。
そして、最後に登場するのが、全作品の詳細なデータです。単なる「あらすじ」や「聴きどころ」だけではなく、その「背景と特徴」というのが絶妙な筆致、正直、これを読むだけで、ヴェルディのオペラの真の魅力が分かるほどです。これさえあれば、マイナーな作品も聴いてみようという意欲が、間違いなく湧いてくることでしょう。

Book Artwork © Heibonsya Limited, Publishers
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by jurassic_oyaji | 2013-06-30 21:53 | 書籍 | Comments(2)
Commented by 加藤浩子 at 2013-07-03 00:34 x
的確にお読みいただき、素晴らしいレビューを書いていただいて、ありがとうございます。感謝感激、光栄の至りです。
Commented by jurassic_oyaji at 2013-07-03 08:37
加藤様。
まさか、ご本人の目に留まるとは思ってもいませんでした。ありがとうございます。