おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
CANTELOUBE/Chants d'Auvergne



Véronique Gens(Sop)
Jean-Claude Casadesus/
Orchestre National de Lille
NAXOS/8.557491



かつて、カントルーブ-オーヴェルニュ-ダヴラツ・・・という、まるで暗号のような言葉が1セットで語られていた時代がありました。今でこそジョセフ・カントルーブが作った「オーヴェルニュの歌」という曲は誰でも知っている有名なものになっています。正確には「作曲」ではなく「編曲」になるのでしょう、カントルーブ自身が採取したフランスのオーヴェルニュ地方の素朴な民謡をソロで歌わせ、そのバックを色彩的なオーケストレーションで彩るという趣向、1924年から1955年にかけて5集27曲から成る曲集が作られました。その全曲を1963年に最初に録音したのが、ネタニア・ダヴラツというソプラノです。その録音(VANGUARD)が発表された頃には、そんな、どれが作曲者でどれがタイトルか分からないような状況は、確かにあったのです。そして、皮肉なことに、このセットがあまりに強烈に 当時のリスナーに刷り込まれたせいか、カントルーブという作曲家の作品は「オーヴェルニュ」以外には完璧に知られることはありませんし、ダヴラツも、この曲以外の録音を耳にすることは殆どなくなっています。クラシック界の「一発屋」、言ってみれば、さとう宗幸の「青葉城恋唄」といった趣でしょうか。
そのダヴラツ盤を聴き慣れた耳には、今回のジャンスの新しい録音は、とても洗練された、どこか別の次元にジャンプしたものに思えてしまいます。なんでもジャンス自身がこのオーヴェルニュ地方の出身だということですが、そのような「ご当地」の鄙びた味をここに求めるのは、ちょっと見当はずれなのかもしれません。彼女がここから導き出したものは、いたずらにローカリティを強調した「民族性」とか「土着性」といったものとは無縁の、もっと普遍的な音楽の魅力だったのです。もっと言えば、そこから聞こえてくるものは、殆どオペラと変わらないほどのドラマティックな説得力を持つものだったのです。有名な「バイレロ」の、極めて単純な旋律の中に、ジャンスはどれほどの細やかな情感を込めていることでしょう。「牧場を通っておいで」の「Lo lo lo」というだけの歌詞から、なんと深みのある意味を見出していることでしょう。何よりも好ましいのは、こういったものを演奏する時にありがちな過剰な「崩し」(中には、それをある種の芸としてありがたがる向きもありますが)が殆ど見られないということです。例えば、第1集の「3つのブレー」などでは、一歩間違えばくさい演技がむき出しになるところを、しっかり端正にコントロールされた「表現」として、私たちには伝わってきます。
改めてこの曲を聴いてみて強烈に感じられたのが、オーケストラの異常とも言える饒舌さ。カントルーブのオーケストレーションは、初めて聴く時にはおそらくかなりのインパクトを与えられるもので、それが心地よい印象となって好感を持たれることになり、これだけのポピュラリティを獲得することになったのでしょうが、じっくり聴いてみるとかなりの点で表面的な効果をねらったものであることが分かります。ピッコロを頂点とした木管群の強烈なオブリガートは、下手をしたらただの騒々しい雑音にも聞こえかねません。そんなオケをバックにした時、ジャンスほどの芯の強さを持たないことには、到底音楽的な主張を伝えることなど出来ないのかもしれませんね。
[PR]
by jurassic_oyaji | 2005-06-13 20:12 | 歌曲 | Comments(0)