おやぢの部屋2
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Concertino
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Peter-Lukas Graf(Fl)
田原さえ(Pf)
MEISTER MUSIC/MM-2155




現役のフルーティストとしては間違いなく世界最高齢のペーター=ルーカス・グラーフが、今年の2月に東京で開いたリサイタルの模様が、ライブCDとなりました。この日のプログラムは、バッハのホ長調のソナタ、シューベルトの「しぼめる花」変奏曲、モーツァルトのヘ長調のヴァイオリン・ソナタK376、シューマンの「3つのロマンス」、そして、アルバム・タイトルにもなっているシャミナードの「コンチェルティーノ」でしたが、CDではシューベルトが割愛されています。全曲を収録しても時間的には大丈夫なはずなのに(CDには51分しか入っていません)なぜカットしてしまったのでしょう。
実は、今回と同じ田原さえさんとのリサイタルを、10年以上前に聴いたことがありました。その時でさえ、年齢からは考えられないような、全く衰えを見せないテクニックと、まだまだ若さが発散されているしなやかな音楽には心底驚いたものですが、今回も、録音を通してではありますが、同じような感慨を抱いてしまいました。84歳にもなって、こんなすごいことが出来るなんて!
リサイタルの会場は、2010年に新装なった銀座のヤマハホール、客席は333と小振りなホールです。ワンポイントのマイクでとらえられたその録音は、会場いっぱいに響き渡るフルートが、息音までも生々しくとらえられている素晴らしいものでした。
最初のバッハは、とても輪郭のはっきりした音楽が聴こえてくるものでした。核となる音が、絶妙のブレス・コントロールによって見事に浮き出してくるのですよ。これはグラーフの昔からの芸風で、以前はちょっと鼻につくところがあったのですが、今回はそれがなんともすんなりとフレーズの中に収まっているのですね。これこそが、まさに「熟成」というにふさわしい、年齢によって磨きあげられた音楽なのでしょう。特に、アップテンポの設定の第2、第4楽章を、思いきりテンポを落として、細かい音符の中から的確に息の長いフレーズをあぶり出している手法は、絶品です。第3楽章では繰り返しでコテコテの装飾を披露してくれて、思いっきりファンタジーが広がります。ピアノの田原さんは、とても軽いタッチで低音をサポートしています。確か、生で聴いたときにはペダルは全く使っていなかったような気がします。
次のモーツァルトになると、ピアノが前面に出てきて、グラーフと丁々発止のやり取りが始まります。最後の楽章のロンドのテーマが、「魔笛」のパパゲーノのアリアにそっくりなのが和みます。オリジナルのヴァイオリンのバージョンにはない味があります。
シューマンも、オリジナルはオーボエのための作品です。その分、フルートにとっては音域が低くなるので、本当の「味わい」を出すのは至難の業なのですが、グラーフの漆黒の音色と重ねた年輪からはロマン派の薫りが押し寄せるように漂ってきます。そのあまりの奔放さに、時としてピアノがつい乗り遅れてしまう場面もありますが、これはライブならではのスリリングな体験として、また格別な味があります。
そして最後はリサイタルの定番、シャミナードです。ちょうど手元に1976年に日本で録音されたLPがあったので聴き比べてみたら、そのあまりの違いに驚いてしまいました。昔は、細かい音符のパッセージをいとも軽やかに扱って、まさに「名人芸」という感じだったものが、今回はそんな音符の一つ一つにしっかり意味を持たせて吹いているのですね。その結果、この曲から、今まで感じたことのなかったメッセージを受け取ることが出来ました。
そんな風に、一晩でバロック、古典、ロマンティック、モダンという違う時代の曲を、それぞれ的確な様式感をもって演奏していたのには圧倒されます。何よりもすごいのは、生演奏なのにミスらしいミスが全くないということです。まさに「怪物」ですね。間違っても「廃物」になんかなるような人ではありません。

CD Artwork © Meister Music Co., Ltd.
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by jurassic_oyaji | 2013-07-06 23:00 | フルート | Comments(0)