おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
MOZART/Große Messe in c-moll
c0039487_20515761.jpg
Elin Rombo(Sop), Stella Doufexis(MS)
Tilman Lichdi(Ten), Tareq Nazmi(Bas)
Peter Dijkstra/
Chor des Bayerischen Rundfunks
Münchener Kammerorchester
SONY/88765 47785 2




モーツァルトの「ハ短調ミサ」は、ご存知のように「未完」に終わってしまった作品です。同じように未完のまま残された「レクイエム」の場合は、何しろ「商品」としてすでに前金ももらっていたものですから、遺族は必死になって「完成品」を作ろうとしました。その結果、曲がりなりにも作曲家と同じ時代に生きた別の作曲家によって完成させることが出来たので、多少の不都合はあっても一応スタンダードとしての楽譜は存在することになりました。つまり、20世紀になって多くの人が修復を試みた楽譜は、その制作過程がいかに学術的な正当性があったとしても、18世紀にモーツァルトと同じ時代を生きていたジュスマイヤーが作った楽譜を超えることはできなかったのです。
ところが、「ハ短調」の場合は、別に完成させなければならない切迫した事情というものはありませんでしたから、作曲家自身が手を引いてしまえば、彼や、彼に近い遺族が生きている間にそれを完成させようと考える人など、いるわけはありません。ということで、後に多くの人によって修復された楽譜は、それぞれ横一列で存在価値を主張する事しかできなくなっているのではないでしょうか。
ですから、今回ダイクストラがこの曲を録音するのに用いたような、「新たな」修復稿が今頃になって表れてくる余地も残っていることになります。そんなことをやってしまったのは、オランダの音楽学者のクレメンス・ケンメという人です。彼がオランダ・バッハ協会と18世紀オーケストラの委嘱によってこの「ケンメ版」を作ったのは2006年初頭のこと、同じ年の4月にブリュッヘン指揮のオランダ室内合唱団と18世紀オーケストラによって初演されています。それが好評だったので、ケンメは「レクイエム」の修復稿の委嘱も受けたそうです。彼自身のライナーノーツでは、すでにそれも完成しているような口調でしたから、いずれはその録音を聴くこともできることでしょう。
ケンメが目指したのは、例えばシュミット版やレヴィン版のように、モーツァルトが作っていない部分まででっち上げて、完成された「フル・ミサ」を作ることではなく、あくまで作曲家が手がけた曲の、欠落していたパートを埋める、という作業に徹することでした。その結果、今まであったものの中ではモーンダー版にかなり近づいたような印象を受けます。ティンパニとトランペットで派手に盛り上がる「Credo」ですね。ただ、「Et incarnatus est」の弦楽器の部分は、独自のフレーズが聴こえてきたりします。さらに「Sanctus」の合唱の入りも、オーケストラと同じところから始まっています。
ケンメは同じライナーノーツの中で、「今までに少なくとも8種類の版が出版されている」と書いていますが、これで「少なくとも9種」になりました(たぶん、アンドレ版、シュミット版、ランドン版、エーダー版、モーンダー版、バイヤー版、レヴィン版、ラングレ版で「8種」のはず)。
ダイクストラは、やはりオランダ人というところで、このケンメ版を使おうと思い立ったでしょうか。懸命に同国人を立てようと。
それはともかく、フォーレなどではあまり感心できなかったダイクストラですが、ここでは見違えるように颯爽とした演奏を繰り広げています。たぶん、モーツァルトの、かなりピリオドがかったものとは相性がいいのでしょうね。ちょっと突き放すような歌わせ方が、ノン・ビブラートの弦楽器の切迫感と見事にマッチして、心地よいドライブ感を生み出しています。
ただ、2人の女声ソリストが、かなり重たい歌い方なので、その流れを邪魔しているような気がします。メリスマなどはかなり悲惨。合唱が立ったり座ったりする音がかなりはっきり聴こえるので、これはおそらくライブ録音なのでしょう。ちょっとコンディションが悪かったのかもしれませんね。

CD Artwork © Sony Music Entertainment Germany GmbH
[PR]
by jurassic_oyaji | 2013-07-08 20:53 | 合唱 | Comments(0)