おやぢの部屋2
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CANTUS
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加藤訓子(Per)
LINN/CKD 432(hybrid SACD)




ネットでこんな面白いものを見つけました。リムスキー・コルサコフの「熊蜂の飛行」の最初の2小節を、4トラックのMIDIで延々と聴かせるだけなのですが、bpmを、トラック1は120、トラック2は122と、ほんの少しずつ早くしているのがミソ。同時にスタートした4つのパートは次第にずれて行って、不思議な「モアレ効果」を生み出すという仕組みです。タイトルは「ミニマル熊蜂」となっていますが、これこそがミニマル・ミュージックの祖師の一人、スティーブ・ライヒが初期の作品で展開した技法に他なりません。1960年代に彼が始めた、同じ音形を複数の演奏家がほんの少しずつテンポを変えて演奏することによって、そんな単純な音形からは想像できないような世界を作り上げることが出来る、という「実験」は、多くの人に衝撃を与えました。演奏する側にとっても、それはとっても緊張を必要とする作業だったに違いありません。それが、50年後には、シークエンサーのアプリさえあれば誰でも簡単に同じ現象を作り上げることが出来るようになってしまったのですね。これは、「ミニマル」の一つの落とし穴でもありました。
その後、ライヒの作曲スタイルは変化してきますが、基本的に単純なパターンを素材としている点は変わりません。そして、それはなにも人の手を煩わさなくても、アプリによって同じものが作れるという点でも、変わってはいません。
打楽器奏者の加藤訓子は、以前このレーベルでライヒの「カウンターポイント」をたった一人で演奏していたアルバムKuniko Plays Reichを作っていました。それは、やはり、PCを使えば簡単に出来てしまうごく単純な「対位法」を、敢えて多重録音を使って「生音」で全てのパートを録音していたものでした。
今回、同じようなコンセプトで作られたアルバムでは、前作には収録されてはいなかった「カウンターポイント」シリーズの、本来はクラリネットのための作品「ニューヨーク・カウンターポイント」を取り上げて、まずは「カウンターポイント・ツィクルス」を完成させています。これは、クラリネットの替わりにマリンバで演奏するという試みですが、なぜかトランジションの部分でかなりの違和感が残るのは、やはり管楽器と打楽器との音の存在感の違いがもろに現れた結果なのでしょうか。
しかし、今回のメインはライヒではなく、タイトルとなっている「Cantus」など、アルヴォ・ペルトの作品でした。本来「ミニマリスト」と呼ぶには抵抗のあるこの作曲家の登場は、この間のラベック姉妹のケースと同じ、結局彼は、遠からずそのようなカテゴリーにくくられてしまうのでしょう。おそらく、それはある意味無機質な「ミニマル」の世界を、もっと情感あふれるものに仕立て上げたいという、多くの人の願い(あるいは利害)によるものなのかもしれません。
そのような役割を担わされたペルトは、アルバムの最後のトラック「Spiegel im Spiegel(鏡の中の鏡)」で、見事に期待にこたえています。これが録音されたのは、近未来的なレコーディング・スタジオではなく、遮音もままならない横浜の古びた倉庫。その空間の豊かな残響とともに、さりげなく混入している外界のノイズが、どれほど「情感」を漂わせていることでしょう。
もう一人、「Purl Ground」というマリンバ・ソロのための作品が演奏されているイギリスの若い作曲家ハイウェル・デイヴィスあたりは、そんな「情感あるミニマル」の将来を担うのでは、と思えてしまいます。

SACD Artwork © Linn Records
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by jurassic_oyaji | 2013-08-05 20:09 | 現代音楽 | Comments(0)