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ジャン・シベリウス/交響曲でたどる生涯
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松原千振著
㈱アルテスパブリッシング刊(叢書ビブリオムジカ)
ISBN978-4-903951-67-6



フィンランドを代表する作曲家、シベリウスの最新の評伝です。タイトルにあるように「交響曲」を軸に、時系列を追って生涯と作品の変遷を語る、という手法を取っていますから、単なる「伝記」とは違い、とても読みやすいものに仕上がっています。
著者の松原さんは、合唱指揮者として高名な方ですから、「なぜ、シベリウス?」、「なぜ交響曲?」という疑問符がたくさん頭のまわりを駆け回ります。しかし、そんな「なぜ?」は、この本を読むうちに氷解することになります。彼は、1980年前後にフィンランドのシベリウス・アカデミーに留学されていて、有名なヘルシンキ大学男声合唱団(YL)の、当時唯一の日本人団員だったのですね。そのほかにもフィンランド放送室内合唱団や、タピオラ合唱団などの団員でもあったそうなのです。その頃、テレビの仕事でフィンランドを訪問していた渡邉暁雄さんから、本格的なシベリウス研究を勧められ、それがこの本のモチヴェーションになったのだとか。
ここでは、「交響曲でたどる」とあっても、いわゆる7つの「交響曲」だけを扱うのではなく、もう少し範囲を広げて「クッレルヴォ」とか「ヴァイオリン協奏曲」までも含めて、話を進めています。その最初の「クッレルヴォ」は、なんと男声合唱が大活躍してくれるぼ。これが、合唱指揮者との接点でした。「交響曲第1番」の章の最後には、「男声合唱と作曲コンクール」というタイトルのパートで、シベリウスの男声合唱曲についても語っています。
各「交響曲」の解説は、それほど厳密なアナリーゼを行っているわけではなく、その分、よくある「楽曲解説」のような退屈さとは無縁なものになっています。例えば、「交響曲第1番」については、「シベリウス自身も語っているが、この曲を支配している要素は、ヴィクトール・リュドベルイのいう『少年の心』である」といった感じで、どちらかというと情緒的なアプローチをとっているために、とても親しみやすいイメージがわいてきます。ここでは、最初から最後まで、その「少年」で通していますから、第1楽章の途中に出てくる最初に装飾音の着いたフルートの二重奏などは「いかにも幼児らしい」とか、第3楽章の木管の軽快な動きは「少年がどこかで他の子どもたちと出会い、言葉を交わすまでもなく、いっしょに戯れ、あちこち足早に動き回っている」などと、分かったような分からないような比喩が並びます。実は、この作品の場合は、もっと語彙が豊富で緻密なアナリーゼを最近体験したばかりなので、何か物足りなさは残り、もうちょっと突っ込んでもらっても良かったな、という気にはなりますね。
他の曲の場合でも、いかにも適切なように見えて、本質とは微妙にずれているのではないか、といった印象を受ける部分がかなりありましたが、基本的に情緒を客観的に表現するのは無理なので、これはしっかりと著者の「気持ちをくむ」といった態度が、読者には求められるのでしょう。
実用的な情報として、ヴァイオリン協奏曲や交響曲第5番の異稿が、現在も入手可能なCDとして市場に出ていることなどは、かなりポイントが高いはずです。実際、ヴァイオリン協奏曲の初稿が存在することすら、現実にはほとんど知られていませんから、その「音」が実際に聴けるという情報はありがたいものです。
巻末の年表や作品表は、データとして重宝しそうですし、北欧のスペシャリストとして、当地の作曲家や演奏家の日本語表記に、一石を投じているのも、なかなか刺激的です。シベリウスの演奏で定評のあったパーヴォ・ベルグルンドは本当は「ベルイルンド」というのが正しそうですし、デンマークの、いわゆる「ニールセン」も、数ある「正しい」表記の中から、著者は「ネルセン」を選んだようですね。

Book Artwork © Altes Publishing Inc.
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by jurassic_oyaji | 2013-08-27 22:31 | 書籍 | Comments(0)