おやぢの部屋2
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WAGNER/Die Walküre
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Nina Stemme(Sieglinde)
Johan Botha(Siegmund)
Ain Anger(Hunding)
Franz Werser-Möst/
Orchester der Wiener Staatsoper
ORFEO/C875 131B




生身の人間が集まって作り上げるのがオペラですから、何事もなくうまくいくことの方が奇跡なのかもしれません。例えば、新演出のプロダクションの初日などは、本当は裏ではものすごいことが起こっているのでしょうね。それをお客さんに気付かせることなく、平然と歌ったり演じたりしている人は、やはりとんでもない能力の持ち主なのでしょう。
200712月2日に、ウィーン国立歌劇場で行われた、新演出によるワーグナーの「ニーベルングの指環」ツィクルスの最初の演目「ワルキューレ」(この歌劇場の場合、伝統的に「ワルキューレ」で始まり、「ジークフリート」、「神々の黄昏」と続いて「ラインの黄金」で終わるという順序で上演されるのだそうです)の初日にも、そんな大変なことが起こっていたのだそうです。第1幕こそ滞りなく終わったものの、続く第2幕から登場したヴォータン役の歌手がかなりの不調で、途中で歌えなくなってしまったんですね。もちろん、これだけの歌劇場では常に控え(「シャドー」ですね)の歌手が待機していますから、上演自体は最後まできっちり行われたのでしょう。そのヴォータン役の人も、次の公演からは何事もなかったかのように歌っていたそうですからね。そういうことが日常的に起こっているのが、このようにほぼ毎日オペラを上演している歌劇場の実態なのでしょう。
そんな感じで、実際に見に来たお客さんはそれなりに満足して家路についたのでしょうが、その録音をそのまま商品化するのはいくらなんでもまずいだろう、ということで、ウィーン国立歌劇場公式のライブCDが出た時には、本来なら3幕あるはずの「ワルキューレ」は、1幕だけのものに短くなっていました。まあ、この作品の場合、この幕だけでも物語はある意味完結していますから、何の問題もありません。
さすが、世界的なオペラハウスのプレミエだけあって、この時のキャストはものすごいものでした。ジークリンデが今やワーグナー歌手の第一人者として世界中でイゾルデやブリュンヒルデを歌っているニーナ・ステンメ、ジークムントが、数少ない「正当」ヘルデン・テノールの名をほしいままにしているヨハン・ボータなのですからね。そして、指揮は、この時点ではまだ客演でしたが、2010年からは小澤征爾の後任としてこのオペラハウスの音楽監督に就任するフランツ・ウェルザー=メストです。
しかし、ジャケットの写真を見ると、ボータの存在感はすごいですね。これで見る限り、戦いで傷つき、「水、水」と言いながらよろよろと登場するというキャラとは、とても思えません。左端にいるフンディンク(アイン・アンガー。この人も、公演の途中で交代したそうです)の方が、いかにも女房を寝取られるかわいそうな夫、みたいな風に見えてしまいます。その「女房」のステンメも、いかにも行きずりの男に身を任せそうな不敵なたたずまいですね。まあ、こんなのが現実の「オペラ」というものなのです。
ウェルザー=メストの指揮ぶりが、そんな「不倫劇」を助長するような「背徳」の色の濃いものです。ジークリンデが登場する時のとてもロマンティックな音楽もかなりぶっきらぼう、「よく、そんなふしだらなことをしてられるね」と戒められているような気がしてしまうのは、考えすぎでしょうか。したがって、クライマックスのデュエットも、甘さとは無縁の、何かこの先に辛い事が待っているような「寒さ」が漂います。いや、物語として実際にそんな辛いことが起こってしまうのですから、これは指揮者のしっかりとした計算に基づく「伏線」に違いありません。その結末がどんなものなのか、ぜひ知りたいと思うところ、いずれこの後の幕も海賊盤などで出た時にこそ、指揮者がこの「ドラマ」で何を描こうとしたかが明らかになることでしょう。

CD Artwork © ORFEO International Music GmbH
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by jurassic_oyaji | 2013-08-29 21:11 | オペラ | Comments(0)