おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
最後のクレイジー 犬塚弘
c0039487_20471941.jpg







犬塚弘+佐藤利明著
講談社刊
ISBN978-4-06-218447-2



以前、2006年に結成50周年を記念して新曲も含めてリリースされたベストアルバムをご紹介した時に、「メンバー7人のうちの3人までが、すでに鬼籍に入ってしまった」と書いていたクレイジー・キャッツですが、その後もメンバーの訃報は続き、植木等さん、谷啓さんに続いて、昨年は桜井センリさんまでが亡くなってしまい、とうとうご存命のメンバーは犬塚さん一人になってしまいました。
そんな犬塚さんが、ご自身の一生を振り返るとともに、当然ながらその「仲間」のことを克明につづった伝記が出版されました。とは言っても、これは犬塚さんが直接執筆したものではなく、クレイジー・キャッツ・フリークであるライターの佐藤利明さんという方が、犬塚さんにインタビュー、そこで犬塚さんが語られたことを再構成したものです。ですから、そこでは犬塚さんも知らなかったようなデータまでもが、あたかも犬塚さんの言葉であるかのように滑らかにはめ込まれていますから、単なる「思い出話」には終わらない、しっかりとした「資料」あるいは「文献」としての価値のあるものに仕上がっています。そういう意味で、ただのゴーストライターには終わらなかった佐藤さんの名前までが「著者」としてクレジットされているのは当然のことでしょう。
実は、ここで述べられているクレイジー・キャッツの歴史などは、1985年に刊行されたこちらの本で、すでに紹介されていたことでした。
c0039487_20482496.jpg

しかし、こんな「歴史的」(まだオフセットではなく、凸版の印刷でした)な本はもはや入手不可能ですから、改めてここで最新の資料が登場したということは、割と最近ファンになった人にとってはなによりのことでしょう。まずは、この敗戦直後の「ジャズ」の歴史の一面を垣間見ることができる、そもそもの「クレイジー」の人脈に注目です。そう、もしかしたら、現在残っているCDDVDでしか彼らに接していない人は、このグループが「ジャズ・バンド」だったことさえ知らないかもしれませんからね。そして、ほんのちょっとタイミングが合っていたら、あの宮川泰や、ラテン・フュージョンの大御所松岡直也などがメンバーに名を連ねていたことも。犬塚さん自身も、かつては秋吉敏子とトリオを組んでいたこともあるのだとか、さらに、ごく最近の話では、渡辺貞夫から本気でバンドに参加することを乞われたそうですよ。彼のベースの腕は、「本物」だったのですね。
今のこの時点まで続いている、役者としての犬塚さんを語った部分も、非常に興味深いものです。確かに彼は、いつの間にかとても素晴らしいバイプレーヤーになっていました。別に震えたりはしませんが(それは「バイブレーター」)。あるとき、たまたまテレビで井上ひさしの戯曲をやっていたのですが、そこに犬塚さんが出演されていて、なんとも味のある演技をしていたので驚いたことがあります。「クレイジー」の映画でのオーバーアクションからは考えられないような、渋い味でした。
ただ、犬塚さんの演技修業は、もっぱら映画の撮影の時のものなのだそうですね。古澤憲吾は苦手だったのに、山田洋二には多くのことを教わったというのも、何か人柄がしのばれます。
「クレイジー」として活躍している時の話は、ほとんどすでにどこかで聴いたことがあるようなものでしたが、それでも「本人」によって語られることで、さっきの文献よりははるかにリアリティを伴って迫ってきます。それも、ライターさんの手腕もあるのでしょうが、常に温かい視線が感じられて、とても幸せな気持ちになれます。「最後のクレイジー」として、「クレイジー」の語り部に犬塚さんが選ばれたところに、何か神の配剤のようなものを感じるのは、そんな温かな語り口のせいなのでしょう。

Book Artwork © Kodansha Ltd.
[PR]
by jurassic_oyaji | 2013-09-02 20:49 | 書籍 | Comments(0)