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MOZART/Requiem
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Benjamin-Gunnar Cohrs(Comp)
Musikproduktion Hoeflich(Study Score)




モーツァルトの「レクイエム」は未完の作品ですが、今では弟子のジュスマイヤーが「完成」させた楽譜が広く用いられているのはご存知のことでしょう。さらに、その、ちょっと完成度の低い楽譜に対して異議を唱え、より完成度の高いとされる楽譜を作った人が5人以上はいたことも、よく御存じのはずです。それは、1971年のフランツ・バイヤーに始まり、1994年のロバート・レヴィンの仕事によってひとまず出尽くした、という感がありました。結局その中で生き残ったのはバイヤー版とレヴィン版の2つだけのような気がしますが、それよりも在来のジュスマイヤー版の存在感が、それらの「新しい」楽譜の出現によって、相対的に高まったのではないでしょうか。もはや、レクイエム業界はその3者によってシェアされているというのが実情なのでしょう。もちろん、トップメーカーはジュスマイヤー版です。
そんな業界に、ここにきて新しい「メーカー」が「参入」してきました。それは、今年、2013年に出来たばかりの、「ベンヤミン=グンナー・コールス版」です。このコールスという音楽学者の名前は、おそらくブルックナーの交響曲第9番の最新の原典版の校訂者として耳にしたことがあるのではないでしょうか。彼はさらに、この交響曲の「未完」だった第4楽章の修復にも関与していましたから、「こうする方がいいよ」と言えるだけのものを持っていたのでしょう。
手元に届いたスコアは、まるで電話帳ほどの厚さがあるものでした。それは、巻末にドイツ語と英語でそれぞれ34ページにも上る解説が加わっているほかに、「レクイエム」を演奏する時の「付録」として、別の曲の楽譜が何曲分か入っていたためでした。
「レクイエム」本体の「完成」に対する基本的なコンセプトは、その長ったらしい解説でつぶさに述べられています。まず、コールスがこの作業を思い立ったものが、こちらでご紹介したバッハの「ロ短調ミサ」に関する書籍を著したクリストフ・ヴォルフの「Mozarts Requiem」という1990年の論文だということです。ヴォルフによると、今まではジュスマイヤーの「創作」とされていた「Sanctus」、「Benedictus」、「Agnus Dei」などには、しっかりと元になるモーツァルト自身によるスケッチがあったのだそうです。ですから、それらの曲に関しては、あくまでスケッチにあった部分は尊重するという姿勢です。その上で、ジュスマイヤーの仕事は破棄して、全く新しいものを作ったそうです。
このあたりは、なんだかレヴィン版とよく似た姿勢ですね。実際に比べてみると、「Lacrymosa」のあとには「アーメン・フーガ」が入っていますし、「Sanctus」のイントロなども、そっくりです。上がコールス版、下がレヴィン版。
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参考までに、このジュスマイヤーが作った部分の小節の長さを比較してみました。
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さらに、前半の部分はこれもジュスマイヤーのものではなく、彼の前にこの修復作業をコンスタンツェから依頼されたヨーゼフ・アイブラーのものを使います。これも、ヴォルフの「ジュスマイヤーは、モーツァルトの弟子の一人にすぎなかった。それが、コンスタンツェが最初にジュスマイヤーに仕事を頼まなかった理由だ」という言葉によるものなのでしょう。
アイブラーといえば、確か「ランドン版」の前半が、同じようなコンセプトで作られたものだったはずです。確かに比べてみるとほとんど同じですが、中にはコールス独自の部分があったりしますから、まあ、それも彼の姿勢だったのでしょう。
惜しいのは、その解説の中でバイヤー版の成立年を「1991年」と間違えていることです。これはドイツ語のテキストでも同じですから、かなり残念。
この楽譜を紹介していたサイトでの、「レオポルド・ノーヴァクとの問答なども見られる」という記述も、残念。そもそもノーヴァク(ノヴァーク)はだいぶ前に亡くなってますし、それらしい部分はおそらくヴォルフの論文の引用です(解説の原文はこちら)。
この楽譜で、最初に録音してくれるのは誰なのでしょうね。

Score Artwork © Musikproduktion Hoeflich
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by jurassic_oyaji | 2013-10-16 20:40 | 書籍 | Comments(0)