Laurent Petitgirard/
Budapest Studio Choir
Honvéd Male Choir
Soloists of the Hungarian Symphony Orchestra Budapest
NAXOS/8.573113
1950年生まれのフランスの作曲家ローラン・プティジラールは、映画音楽など多方面にわたっての作曲活動と同時に、指揮者としても有名です。ベルリン・フィルやウィーン・フィルといった超一流どころはさすがにまだですが、フランス国内を始め世界中のかなりの数のオーケストラとの共演を果たしています。さらに、彼は
1989年には自分で「フランス交響楽団
Orchestre Symphonique Français」というオーケストラを作って、そこの指揮者と音楽監督になります。音楽監督のポストは
1997年まで務めたのですが、その後このオーケストラはどうなってしまったのでしょう。記録の上ではプティジラールとの演奏しか見当たらないので、彼が去ったあとは自然消滅したとか。
彼の作品は今まで聴いたことがなかったので、ここは帯解説を頼りに
2002年に初演されたオペラ「エレファント・マン」をまず試聴してみましょうか。その解説では「ほとんど無調で強烈な響き」とありますが、この年代の作曲家で「無調」などという前世紀の遺物にこだわっている人というだけで、
無性に興味が出てきます。
ところが、そのオペラから聴こえてきたのは、ほとんどミニマルと言っていい小さなパターンの繰り返しの音楽、ハーモニーもフランス音楽の伝統をしっかり受け継いだプーランクとかメシアンあたりとの共通項が容易に感じられるものですよ。確かに「強烈」なところはありますが、これのいったいどこが「無調」なのでしょう。
という予備知識を仕入れたところで、この
CDを聴いてみることにしましょうか。ここに収録されているのは、
2010年の新作です。サン・テグジュペリの「星の王子さま」をテキストにしたバレエ音楽、アヴィニョンのオペラハウスでのソニア・ペトロヴナの振付による公演のために作られました。編成は合唱にクラリネットとハープと打楽器が加わっただけという、とても簡素なものです。
ここでは音楽のみが収録されていますから、作品としては「組曲」というタイトルが付けられています。要は、映画のサントラ盤のように、それぞれのシーンにふさわしいタイトルが付けられた、全部で
14の「楽章
movement」から成っているという構成です。その第1楽章「プロローグ」は、もろにア・カペラの合唱で、何か不思議な音列が演奏されます。まあ、これは確かに「無調」っぽい音列ではありますが、それよりはメシアンあたりの「移調の限られた旋法」のようなテイストを帯びたもののように感じられます。
メシアンとの類似性(あくまで、単なる感想ですが)は、第6楽章の「ばら」でも見られます。ここではなんと最初から最後までクラリネット1本で演奏されているのです。もちろん、これをメシアンの「時の終わりのための四重奏曲」の投影と見るのは、そんなに見当外れのものではないはずです。ここからは、何か瞑想的な情感が感じとられるかもしれません。その対極にあるのが、第4楽章の「バオバブ」。これは、まさにこの恐ろしい植物を描写したかのような、荒々しい7拍子のモチーフが繰り返される、「ミニマル」そのまんまの音楽です。
そんな風に、ジャケットのインレイの英文コメントを引用すれば、この作品ではそれぞれの「楽章によって、夢から現実まで、そして神秘性から無垢な情感までという、『星の王子様』のエッセンスを呼び起こしてくれる」はずです。
ところが、やはりこの部分を引用した帯解説では、「
movement」をそのまんま「動き」と訳してしまったために、相変わらずのおかしな訳文が出来上がってしまいました。これがその全文です。
こういう曲ですから、合唱にはキレのいい演奏を期待したいところですが、ここで歌っているハンガリーの団体は、歌い出しのピッチやタイミングはバラバラ、歌い始めれば意味のない深いビブラートと、ちょっと残念です。
CD Artwork © Naxos Rights US Inc.