おやぢの部屋2
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BACH/Matthäus-Passion
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Werner Güra(Ev), Johannes Weisser(Jes)
Sunhae Im(Sop), Bernarda Fink(Alt)
Topi Lehtipuu(Ten), Konstantin Wolff(Bas)
René Jakobs/
RIAS Kammerchor, Akademie für Alte Musik Berlin
HARMONIA MUNDI/HMC 802156.8(hybrid SACD)




バッハの「マタイ受難曲」では、楽譜に「Chorus primus」と「Chorus secundus」という風に表記されているように、合唱とオーケストラがそれぞれ2つずつ用意されています。ですから、現在コンサートホールで演奏する時には、下手には「第1コーラス」、上手には「第2コーラス」のような並び方をしているはずです。
しかし、今回指揮者としては初めて「マタイ」を録音したヤーコブスは、そのような慣例的な配置には疑問を投げかけています。彼によれば、2つのコーラスはそれぞれ別々の役割を担っていて、第1コーラスは「プリンツィパル」、第2コーラスは「リモート」と位置づけられています。人数も、「プリンツィパル」は「リモート」の倍近く、さらに「リモート」は距離的にもかなり離れた場所で演奏するという設定です。確かに、この曲が演奏されたライプツィヒの聖トマス教会には、オルガンが設置された聖歌隊用のバルコニーが複数ありますから、各々に別々の「コーラス」を配置した可能性はあるでしょう。
それよりも、ヤーコブスの場合は、音楽やテキストのあり方から、この作品がそのような音場を求めているのだ、という結論に達したようですね。そして、それを録音で実現させるために、ヤーコブスは「プリンツィパル」を正面、「リモート」を背面に配置しました。この模様は同梱のDVDによってはっきり見ることが出来ますが、指揮者は前と後ろにそれぞれ譜面台を置いて指揮をしていましたね。SACDの場合は、それをマルチチャンネルによってフロントとリアにリアルに定位出来るのでしょうが、それを2チャンネルでもはっきり感じられるように、そのリアの音自体にしっかり「リモート感」を持たせています(というより、このSACDには、今まであった「MULTI CHANNEL」のロゴがどこを探してもありません)。
この音場設定は、目を見張るほどの効果を上げています。最初と最後の大きな合唱では、「リモート」の「Wen?」といった合いの手や「Ruhe sanfte, sanfte ruh」という掛け合いが、見事に立体的に聴こえてくることによって、そのように割り振ったバッハの意志までもがしっかり伝わってきます。これは、アリア自体を「リモート」に演奏させた場合にも言えることで、ソリストの歌う歌詞自体はすこしモヤモヤとなっていますが、それによってそのアリアの持つ「客観性」のような視点が、きちんと耳から聴き取れることになるのですね。
しかし、そんな「仕掛け」自体は、実はそれほど重要ではなかったことが、この演奏を聴くうちに分かってきます。ヤーコブスの作りだす音楽は、たとえばモーツァルトのオペラでも見られたような、オーケストラや合唱の全てのパートにしっかりと命が吹き込まれているものでした。第1曲目のイントロなどは、次々に入ってくる声部が、それぞれに生き生きと自分の存在を主張してきます。しかし、それが重なった時にも、全体のベクトルは確かに一つの方向を向いているのですね。
ちょっと耳慣れない措置としては、通奏低音でリュートをかなり強調させて音を拾っています。それが伏線だったのかもしれませんが、57番のバスのアリアでは、現行版ではヴィオラ・ダ・ガンバで演奏されるオブリガートが、初期稿でのリュートに置き換えられています(BTでガンバ版が入ってます)。ここでリュートを演奏しているのは日本人の野入志津子さん、素晴らしいアリアを披露しているソプラノのイム・スンヘともども、東洋人が大活躍です。
録音は、2012年の8月から9月に長い時間をかけて、ベルリンのテルデックス・スタジオで行われています。DVDを見ると、編成によって細切れにテイクが設定されているようですが、最後にそれを編集した時には、曲間の隙間がほとんどなくなって、全体がとても緊密な流れになっています。そんな編集スタッフの耳の良さまでもが反映されて、ちょっと今までのものとは格の違う「マタイ」の録音が出来上がりました。

SACD Artwork © harmonia mundi s.a.
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by jurassic_oyaji | 2013-11-03 20:48 | 合唱 | Comments(0)