Florian Uhlig(Pf)
Lukasz Borowics/
Polish Radio Symphony Orchestra
HÄNSSLER/CD 98.018
2002年に作られ、
2007年に改訂されたペンデレツキのピアノ協奏曲「復活」の、3枚目の
CDが出てしまいました。現代作曲家の作品は、まず1枚
CDが出ればいい方ですから、これはちょっとすごいことなのではないでしょうか。確かに、この作品はとても「現代曲」とは思えないようなキャッチーなところがありますから、もしかしたら本気でコンサート・ピアニストのレパートリーになったりするかもしれませんね。もはや、作曲家の自己満足だけで成立している「現代音楽」の時代は終わってしまったのでしょう。それよりも、手っ取り早くお客さんを楽しませるものを作ることの喜びに、作曲家は気が付いてしまったのかもしれません。要は、「どこかで聴いたことがある」という感覚が、その「楽しみ」には不可欠なものなのですよ。
このピアノ協奏曲は、そのあたりのツボを見事に押さえています。まるで曲目あてクイズのように次から次へと聴きなれた音楽が登場しますから、それの元ネタを考えるだけでも「楽しい」ひと時を過ごすことが出来ることでしょう。それも、聴きこむにしたがってその元ネタがよりたくさん発見できるようになるのですから、たまりません。実際、最初に聴いたときにはラフマニノフとチャイコフスキーぐらいしか思い浮かばなかったものが、今度の新しい
CDを聴くころには、サン・サーンスやベートーヴェンさらにはバルトークまでいたことにしっかり気づくようになっていましたからね。
今回の演奏者は、ピアノがフローリアン・ウーリヒ、オーケストラはウカシュ・ボロヴィツ指揮のポーランド放送交響楽団です。このオーケストラは、この曲の初稿を最初に作曲家自身の指揮で録音した時のオーケストラと似た名前ですが、あちらは「カトヴィツェ国立ポーランド放送交響楽団」、こちらはワルシャワの団体で全くの別物です。もう一つ、改訂稿の初演を録音したのはアントニ・ヴィット指揮のワルシャワ・フィルで、オケと指揮者に関してはすべてポーランド製となっています。ただ、コンサートで初演を行ったのはサヴァリッシュ指揮のフィラデルフィア管弦楽団ですから、そもそもインターナショナルなスタートだったのでしょう。
初稿も改訂稿も、初録音はバリー・ダグラスでした。彼の演奏は、オーケストラともどもひたすらドラマティックに曲を盛り上げるというものでした。特に、改訂稿の録音では、はっきり言ってミエミエのオーバーアクション満載のこの曲を、とことんなりきって演じることによって、あほらしさを強調しているのではないか、と思えるほどでした。指揮者のヴィットにはそういうところもありますからね。
しかし、今回のウーリヒには、かなり真摯に、作曲家を
信じてこの曲の良さをきちんと伝えたい、というようなごくまっとうな姿勢が感じられます。最後に2回出てくる、例の「1812年」というか、「サン・サーンスの3番」に酷似した部分などは、そこへ持っていくまでのピアノのソロできっちりと盛り上げる手順を踏んで、それが決して唐突なものではないことをしっかりと知らしめようとしています。おかげで、この大袈裟なクライマックスには、ただのパクリではないもっと深い意味もあるのでは、などと考えたくもなってしまいます。そう思えたのは、この中から、日本人にとっては最も聴くことの多い、場合によっては強制的に歌わされたりするほど有名なあの曲のメロディが浮かんできたからです。
改訂稿では、最後に、かなり前の方に出てきた、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番の第2楽章そっくりの部分が再び登場します。ここを、ウーリヒはとことん繊細に弾いているのですね。それが、その直後に暴力的な楽想で無残に断ち切られる場面とのコントラストになっています。これは一つの可能性。しかし、ダグラスのようにもっとノーテンキに演奏した方が、この作品の「本質」にはより迫れるのではないでしょうか。
CD Artwork © hänssler CLASSIC