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嶋護の一枚/The BEST Sounding CD
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嶋護著
株式会社ステレオサウンド刊(
SS選書)
ISBN978-4-88073-316-6



時系列として辿れば、嶋護(しまもり)さんの文章を読んで最初に衝撃を与えられたのは、ESOTERIC「指環」のSACDに付いてきた分厚い解説書ででした。「リング、そのデッカサウンド」というエッセイからは、今まで漠然と存在していたものが、鋭い切り口で突然実体をもって目の前に現れたのです。何しろ、その解説書ときたら、嶋さんと同じ名前の渡辺護(こちらは「まもる」)氏の、1965年に上梓された著作(↓)をそのまま、ライトモチーフの譜例の版下まできれいにコピー&ペイストしただけという雑な「楽曲解説」をはじめとして、すでに公になった文章をかき集めただけというお粗末なものでしたから、そこで唯一の描き下ろしであった嶋さんの文章のすごさは、おのずと際立っていたのでした。
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その次に出会ったのが、「クラシック名録音106究極ガイド」でした。ここで嶋さんが列挙しているプロデューサーやエンジニアの固有名詞には圧倒され、いつかはそのかなたの人名に親しめるだけのスキルを身に着けたいものだ、と思い知らされたものでした。もう一つ悔しかったのは、いくら嶋さんの言葉によって紡がれたそれらの名録音を実際に体験しようにも、それらのLPはもはや入手することは殆どかなわないものばかりだったことです。
そんなもどかしさを解消してくれるようなものが、実はだいぶ前に出ていたことに気づいたのは、菅野沖彦のXRCDを取り上げた時でした。その時にたまたま書店で目にして比較サンプルとして購入した「菅野レコーディングバイブル」という嶋さんの書籍に同梱されていたSACDこそは、それまでの嶋さんの文章を「音」として体験できるものだったのです。そこで試みられていた、「録音時に回っていたセッションマスターを録音時に使われていたマシンと同じ機種で再生し、『フラット』にDSDにトランスファーする」という手法から生まれたSACDから出てきた音は、衝撃以外の何物でもありませんでした。正直、今までほとんど神格化の対象だった杉本XRCDが、これほど色あせて聴こえたことはありません。
したがって、この、今まで10年にわたって雑誌に連載されてきた文章を集めた新刊では、その時以上の衝撃はすでに約束されていました。なによりも、ここで取り上げられているアイテムのほとんどは今でも流通しているCDSACDですから、その気になれば入手して嶋さんの体験を追うことだって可能なはずです(いや、すでに何枚か保有しているのを知って、本当にうれしくなりました)。
個々のアイテムとその周辺の検証はもちろんとても魅力的なエピソードばかりですが、その底に流れる「グルンドテーマ」も、すぐに見つかります。それは、マスタリングにかける嶋さんの思い。多少煩雑な記述の中からは、マスターを選び、的確なマスタリングを行うという作業がいかに重要なものであるかが思い知らされることでしょう。
すでに、いくつかの固有名詞はボキャブラリーに加わっていたとはいえ、ここで怒涛のように押し寄せる新たなそれは、やはり達すべき頂の高さを喚起されるものばかりです。そんな中で、ピーター・マッグラスという名前は、間違いなく新たに仲間になってくれるはずです。その接点は、彼が使っていた「KFM6」というマイク。
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これは、知り合いのKさんというエンジニアの方が、こちらで使っているのを見て初めて知ったマイクです。それで録音されたというマーラーの1番は、本書の2010年の時点では「入手には根気が求められる」CDでしたが、なんと2011年にはリイシューされていたではありませんか。それを知ったからには、注文しないという選択肢はあり得ません。
嶋さんの、ちょっとマニアックな文体には、いつも圧倒されます。フィラデルフィア管弦楽団の弦楽器セクションを、軽く「フィリー・ストリングス」と呼べるボーダーレスな感覚の持ち主は、知る限り「音楽評論家」には皆無です。

Book Artwork © Stereo Sound Publishing, Inc.
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by jurassic_oyaji | 2013-11-15 21:22 | 書籍 | Comments(0)