おやぢの部屋2
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「遠い帆」再々演
 「遠い帆」を見てきました。三善晃が1999年に仙台市の委嘱によって作った、彼にとっては唯一のオペラです。支倉常長という伊達藩の藩士が、伊達政宗の命によって海路ヨーロッパへ渡ったという史実を題材に、高橋睦郎が台本を作っています。何人かのソリストが登場しますが、重要な役割を担っているのが合唱です。そこで、初演の時にはその合唱を仙台市民に歌ってもらおうと、広くオーディションを行ってこのオペラのために合唱団が編成されたのです。その時に、応募したのが私の愚妻です。昔は合唱団に入っていましたがずっと現場から離れていたものが、なにを思ったかまた合唱をやりたくなったのですね。もちろん、私は全面的に応援してあげましたよ。私ばっかりオーケストラで楽しんでいるわけにはいきませんからね。練習には車での送り迎え、それは結局今日までずっと続くことになります。
 1999年の初演は仙台と東京で行われましたが、それが好評だったので翌2000年には、さらに再演がやはり仙台と東京で行われました。この時には、どちらも会場がワンランク大きなものに変わっています。仙台は当時の青年文化センターのシアターホールから、当時の宮城県民会館に、東京は世田谷パブリックシアターから、なんと東京文化会館ですからね。もちろん、その全ての公演に愚妻は参加、当然私も全部見て回りました。佐藤信の演出は、ステージにオーケストラも乗るという斬新なもの、「シアターピース」的な要素も取り入れていて、とても印象深いものでした。
 この作品は、2002年に、仙台市とは全く関係なく、神奈川県民ホールの制作によって上演されています。もちろん、キャストやオーケストラは現地の人たち、しかし、これも行きがかり上愚妻と見に行きましたね。こちらの演出は、いかにも手堅いものですがあんまり面白みはありませんでした。
 そして、今年2013年がこの史実からちょうど400年にあたるということで、仙台市は再々演を企てます。この頃になると、このオペラのテーマである支倉常長の遣欧使節への評価が、初演当時とは劇的に変わってきていました。オペラで描かれている常長のネガティブなイメージは払拭され、当時もあった大地震からの復興の意味までも込められたものだった、という、殆ど常長を英雄視するような史観がのさばりだしてきたのですね。そんな、いわば現代の震災からの復興のシンボルとさえとらえかねられない常長像とは真っ向から反する描き方をしたこのオペラは、受け入れられるには抵抗があるのではないか、という気がしていましたね。
 今回は、初演とはスタッフもソリストも一新されていました。オーケストラと合唱だけが同じですが、当然そのメンバーはガラリと変わっています。もちろん、愚妻はもう出ていません。ただ、メンバー表を見てみると、初演時のメンバーも結構残っていましたね。あの頃は一面識もなかった人が、今では知り合いになっていたというのも、流れた歳月のせいでしょう。指揮者も違いますから、当然演奏も変わっていたのでしょうが、聴いた限りでは三善晃のダイナミックな音楽にはなんの変りも感じられませんでした。大きく変わっていたのは演出です。演出家は、さっきのような最近の楽天的な常長像などは一顧だにしない、あくまでこの作品に必要な常長像を、さらに深く追及しているようでした。
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 合唱指揮者陣のカーテンコールの時に1枚だけiPhoneで撮ってみましたが、ステージの上にぶら下がっているものが、その象徴でしょう。最初はこれが何なのかは分かりませんでしたが、これは、本来のキャストではないアルレッキーノが現れた時に、すぐ分かりました。それは、操り人形を操作するための巨大な「手板」だったのですね。そこから垂れ下がる無数の「糸」、これが「権力者」を含めたすべての登場人物がなにものかに「操られている」ことの象徴となっていたのです。
 この合唱を含めて、本当に素晴らしい演奏が繰り広げられていたのでは、と思います。しかし、この作品の「意味」を的確に受け取るためには不可欠な「言葉」が、あまりにも聴こえにくかったのは、非常に残念でした。ソリストも合唱も、可能な限り「言葉」を分からせようという努力をしていたことはとても理解できます。しかし、そこには物理的に決定的な問題が横たわっています。ああいう大音響のオーケストラを使って大ホールで歌う時には、絶対に「言葉」を正確に伝えることは出来ないのです。ここはひとつ、メンツをかなぐり捨てて「字幕」のお世話になるべきだった、という気が切実にします。なんせ、これだけ「遠い帆」を見てきて、台本にも精通していたはずの私でさえ、聴きとれた言葉はせいぜい1割ぐらいだったのですからね。字幕でテキストが全て理解できれば、さらに楽しめたのに、と、心底思いました。
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by jurassic_oyaji | 2013-12-08 21:05 | 禁断 | Comments(0)