おやぢの部屋2
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SCHUBERT/Winterreise
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Dietrich Fischer-Dieskau(Bar)
Maurizio Pollini(Pf)
ORFEO/C884 131B




各方面で話題になっている1978年のザルツブルク音楽祭でのフィッシャー・ディースカウの歌う「冬の旅」のライブ録音です。ピアノ伴奏が、当時36歳だったマウリツィオ・ポリーニだったというところで、異常ともいえる騒ぎ方になっているみたいですね。「これを聴かずして『冬の旅』は語れない」とまで言われれば、聴いてみないわけにはいかないじゃないですか。
もちろん、この音源はこの音楽祭の演目を逐一放送しているORF(オーストリア放送協会)によって録音されたものです。それが日本でもNHK-FMで放送されて評判を呼んだそうなのですが、やっと公式のCDになってリリースされました。最近でこそ、放送音源と言ってもクオリティは商品であるCDと変わらないほどの良質な環境で録音されているようですが、この頃はまだ、単に「コンサートを記録したもの」という程度のもので、ちょっとアマチュアっぽい仕上がりでも充分に使い物にはなっていたのでしょうね。これを今のきちんと仕上げられたバランスの良い普通のCDと比べてしまうと、ちょっと辛いかな、というところが、音に関してはあるのではないでしょうか。
それは、歌手にもピアノにも言えることで、生の声が何の反響も伴わないで直接マイクに届けられたフィッシャー・ディースカウの声からは、CDでは確かに聴けたはずの端正さは全く消え去っていますし、ポリーニの弾くピアノの音からも潤いのある音色が届くことはありません。しかし、その分きれいにまとめられた「商品」では決して聴くことのできないストレートな思いまでもが伝わってくるというのが、得も言えぬ魅力にもなっているのでしょう。正直、この声とピアノで無防備なところに迫られるのはかなりのダメージを与えられることを覚悟しなければいけません。しかし、それに耐えてこその感動があることも、まぎれもない事実です。
それにしても、この演奏の密度の高さはハンパではありません。そこには、まさに全身全霊をかけての「真剣勝負」といった趣さえ漂うようなすさまじいものがあります。何しろ、作品に対する徹底した洞察力を持つ二人ですから、それぞれの思いをぶつけたいところなのでしょうが、そこはまずアンサンブルとしてのバランスを取らなければいけません。そんな、いつ破裂してもおかしくないような状態でのバランスですから、それはスリリングなものがありますよ。
1曲目の「Gute Nacht おやすみ」では、まずは様子見、といった感じでしょうか。しかし、ポリーニのイントロにぴったり寄り添うようなフィッシャー・ディースカウは、そこでまず「大人」であることを見せつけます。ここはまず、相手のやり方にとことん付いて行ってやろうというスタンスなのでしょう。そして、4番の前の間奏で曲が短調から長調に変わる瞬間のポリーニの絶妙のppに乗って出てきた歌の、なんという味わいでしょう。ただでさえ表現の幅の大きいフィッシャー・ディースカウの渾身のpp、いや、ppppには、背筋が寒くなるほどです。
こんな風に、二人はお互いを聴きあいながら、時には牽制し、時には服従するといったことを繰り広げていきます。9曲目の「Irrlicht 鬼火」では、ピアノのイントロがあまりに淡白すぎるのを、ポリーニが歌を聴いている間に察知、途中からガラッと進路を変更している様子が手に取るようにわかります。逆に、18曲目の「Der stürmische Morgen 嵐の朝」では、ポリーニのテンションがあまりに高すぎて、ついミスタッチをしてしまいます。そんなありえないミスに、ポリーニのテンションは高まるばかり、フィッシャー・ディースカウは何とかそれを食い止めようとしますが、結局そのままの勢いでゴールインという危ないものも有りますし。
あまりの緊張のせいでしょうか、曲間のお客さんがもたらす何かホッとしたようなざわめきが、とても印象的でした。そんなホットな瞬間を、味わってみては。

CD Artwork © ORFEO International Music GmbH
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by jurassic_oyaji | 2013-12-23 20:07 | 歌曲 | Comments(0)