おやぢの部屋2
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MAHLER/Symphony N0.1
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James Jadd/
Florida Philharmonic Orchestra
HARMONIA MUNDI/HMA 1957118




先日ご紹介した「嶋護の一枚」という本の中で「マーラーの交響曲第1番のPCM録音の中ではベスト」と興奮気味に語られていたジェームズ・ジャッド指揮フロリダ・フィルのCDを入手しました。その記事の中では「入手困難」という状態だったものが、実は2011年にこんなバジェット・シリーズでリリースされていたのでした。
この「Musique d'abord」というシリーズは、なかなか気の利いたデザインで、一見デジパックのような感じはしても、素材はすべて紙、「地球にやさしい」ということでしょうか。そして、何より驚いたのが、この、よくあるLPに似せた印刷面を裏返すと、なんと、普通は銀色や金色に輝いている録音面が、真っ黒になっていることです。
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思わず、これはダミーかなんかが間違って紛れ込んだのではないか、と思ってしまいました。30年近くCDに接してきましたが、こんなのを見たのは初めてでしたからね。でも、恐る恐るCDプレーヤーに入れたら、ちゃんとトラックが表示されたので一安心です。もちろん、音もちゃんと出てきましたよ。いや、それは単に「出てきた」なんて次元のものではありませんでした。正直、CDでこれほどの音が聴けるなんて思いもしなかったような、それは今まで感じていたCDの限界などはるかに超えてしまうほどの、瑞々しく繊細な音だったのです。
それは、まるで録音の良否を試すために作られたような、この曲の出だしを数分聴くだけで分かります。冒頭の弦楽器のフラジオレット(ハーモニクス)の、まさに倍音の絶妙な混じり具合はどうでしょう。あるいは、それを生み出す弓の松脂と弦との摩擦音。そんな静寂の中で、ピッコロを含む木管楽器がユニゾンで奏でる四度下降の崇高な響き。クラリネット2本とバスクラリネットが奏でる深みの中にもまろやかさをたたえたアンサンブル。そして、絶妙な距離感をもって遠くから聞こえてくるトランペット。これらの音場が全く自然な広がりを見せているのは、別にこのCDがまっ黒だったせいではなく、まさにエンジニアのピーター・マッグラスの卓越した耳と、彼が用意したワンポイントマイク、SCHOEPSKFM-6Uとの賜物でしょう。
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そんな繊細さの極みとは対極の、エネルギッシュな爽快感を味わいたければ第4楽章の頭などはいかがでしょう。シンバルの一撃に続くバスドラムの超低音に、まず度肝を抜かれます。そして、金管の咆哮のまろやかさ、そこにはきっちりと奏者の姿まで分かるほどのリアリティが感じられます。さらに、その間隙を縫って湧きあがってくる弦楽器の、これもまさに60人の弦楽器奏者の集まりであることが如実に分かるテクスチャーが、見事に表現されています。なにしろ、この実際にたくさんの人が演奏しないことには出て来ない滑らかな質感は、CDのスペックでは絶対に出すことはできないと思っていましたから、これは驚き以外のなにものでもありません。
指揮者のジャッドは、日本のオーケストラとも共演していてそれなりの知名度はあるものの、決して広く知られた人ではありません。しかし、このマーラーを聴くと、オーケストラを自由自在に操って、なんとも優雅な音楽を作り上げています。第2楽章の絶妙の「タメ」は、とてもアメリカのオーケストラとは思えないほどの粋な味、もっとも、第3楽章はちょっと調子に乗り過ぎ、という感もなくはありませんがね。彼は、ここで演奏しているフロリダ・フィルの音楽監督を1987年から2001年までの長期にわたって務めていましたが、この時期がこのオーケストラにとって最も輝いていたものだったことがよく分かる、信頼関係が見て取れる演奏です。
しかし、このオーケストラは、ジャッドが去った2年後には破産してしまい、この世から姿を消してしまったのです。「しまった」と思った時には時すでに遅し、今のアメリカにはミネソタ管弦楽団など、そんな火種を抱えているオーケストラはまだまだあるようです。

CD Artwork © harmonia mundi s.a.
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by jurassic_oyaji | 2013-12-29 21:30 | オーケストラ | Comments(0)