おやぢの部屋2
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名曲の暗号/楽譜の裏に隠された真実を暴く
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佐伯茂樹著
音楽の友社刊
ISBN978-4-276-21063-9


AMAZONのカスタマーズレビューで、「茂木大輔」さんという方がこの本を絶賛されていましたが、これは、あの茂木さんご本人なのでしょうか。しかし、もぎ(もし)「なりすまし」だったとしても、それは本物の茂木さんでも間違いなく書きそうな内容でした。つまり、あのマニアックな茂木さんですら手放しで絶賛することをはばからないような、これはものすごい本なのですよ。
はからずも同じ時期に出版された前回の書籍と比べると、その違いがより明確になるはずです。あちらはあくまで「ファン」というか、音楽に関してはシロートの仕事ですから、頼りとするのは自分の感性のみ、作品にまつわる胡散臭い俗説なども真に受けて、ひたすら自分に都合の良いように作品をねじ曲げてありがたがるという姿勢が前面に出ています。まあこのような人の場合、ご自分の感想を謙虚に述べているうちは害はありませんが、それをまわりの人がありがたがるようになってくると、事態は深刻です。困ったものですね。
対して、本書の著者の佐伯さんは、膨大な資料と論理的な思考をもとに、あくまで客観的に作品の本質に迫るという、本物の「マニア」のスタンスを貫いているのですから、最初から勝負にはなりません。以前ご紹介したこちらの本よりも、さらにワンランク上がった「至高の」知識を、貪らせていただきましょう。
まず、冒頭で、ベートーヴェンの「交響曲第5番」の、それこそ冒頭のモティーフについて、例の「運命が扉を叩く」という俗説を全否定してくれています。あの「運命~」云々は、もともと胡散臭いものであるのは最近では周知の事実とされていて、さすがに前回の著者もそれを受け入れてはいますが、それでも「音楽がそのように聴こえる」と開き直っているのが、笑えます。もちろん、佐伯さんは同時期に作られた「交響曲第6番」との関連で、カール・ツェルニーが言ったとされる「鳥の鳴き声がヒントになった」という説を支持しています。
メンデルスゾーンの「交響曲第4番」の改訂についても、彼の姿勢は明確です。このサイトでは、一体何が真実なのかはっきりしていなかった中で、とりあえずこちらで書いたようなところに落ち着いてはいました。そんな中で、ここではその2つの楽譜のそれぞれの成り立ちを詳しく知ることが出来、一気に確証を得ることが出来ました。きちんと、どちらもファクシミリが出版されていたのですね。ですから、耳で聴いただけでは分からなかった第3楽章トリオでの2番ホルンの音形まで、ここでは知ることが出来ます。この改訂、出来としてはいわゆる「改訂稿」の方が元の形のように思えるところもあったのですが、このように新しい楽器が出てきたことに影響された跡(一応推測ではありますが)まで突きつけられれば、もはや信じないわけにはいきません。
一番驚いたのは、ドヴォルジャークの「交響曲第9番」での2番フルートのパートの話です。常々、この曲では1番フルートを差し置いて2番フルートが多くの個所でソロを吹くことには、何か不自然なものを感じていました。まあ、2番をやった時には堂々とソロが吹けたので気持ちがよかったのは事実ですが、普通の曲の2番ではまずあり得ないことですからね。しかし、これも著者の自筆稿のリサーチによって、単なる印刷ミスであることが発覚してしまいます。これは、いわゆる「原典版」でもそこまで踏み入ってはいなかっただけに、かなりショッキング。2番奏者の唯一の楽しみが、これからはなくなってしまうのでしょうか。
これだけ明確に今までの「誤謬」を正しているにもかかわらず、最後のコントラファゴットについての部分では、ちょっと文章の詰めが甘く、著者の言いたいことが正確に伝わっていないのでは、と思えるのが、少し残念です。

Book Artwork © Ongaku No Tomo Sha Corp.
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by jurassic_oyaji | 2014-01-08 20:11 | 書籍 | Comments(0)