おやぢの部屋2
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CHOPIN & SCHUMANN/Piano Concertos
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岡田博美, Constantino Catena(Pf)
Claudio Brizi(Org, Cond)
Wolfgang Abendroth, Johannes Geffert,
Elide D'Atri, Carmen Pellegrino,
Alessandro Maria Trovato(Org)
CAMERATA/CMCD-28293




イタリアの長靴のつま先の先、シチリア島の西の端に、トラーパニという街があります。そこのサン・ピエトロ教会には、なんとも不思議な外観を持つオルガンが設置されています。このジャケット写真に写っているのがその現物ですが、なんと演奏台(コンソール)が3つもあるのですよ。手鍵盤(マニュアル)は、真ん中の演奏台が3段、両サイドは2段ずつですから、全部で7つのマニュアルということになりますね。
そんなぶっ飛んだオルガンを作ったのは、フランチェスコ・ラ・グラッサというビルダーでした。なんでも彼はほとんど独学でオルガン製造の技術を身に着けたというある意味「天才」だったそうで、なまじ伝統的な技法を学ばなかった分、こんな独創的な発想が湧いたのでしょう。彼は1836年にこのオルガンの製造に着手し、11年後の1847年に完成させます。
この楽器に魅せられて、その可能性を最大限に発揮させた演奏を行ってきたのが、このアルバムで中心的な働きをしているオルガニストのクラウディオ・ブリツィです。もちろん男性、かわいくもありません(それは「プリティ」)。彼は多くのオーケストラ曲を、何人かのオルガニストの協力のもとに演奏してきたそうです。まさにオーケストラそのものがこの楽器の中に秘められていると考えたのでしょうね。このアルバムのメインタイトル「The Hidden Orchestra」とは、そのような意味を持つものだったのです。
そうなってくると、やはりこの楽器が作られたロマン派の時代の花形楽器、ピアノとの共演がしたくなるのは自然の成り行きなのでしょう。ロマン派にこだわった彼らは、まさにこのオルガンが完成した年と同じ1847年に作られた「エラール」とともに、ショパンとシューマンのピアノ協奏曲を録音することを企てました。
このピアノは、まさにこれらの協奏曲が生まれた時代に使われていたもので、当時と同じ鄙びた音を奏でる楽器です。それは、このロマンティックなオルガンと一緒に演奏される時には、まさに「同時代」の響きを生むに違いありません。もちろん、この録音を行った人たちは、そのような「期待」の上に、今まで聴いたことのないような「古くて新しい」コラボレーションの成功を確信していたはずです。
確かに、ショパンのピアノ協奏曲第2番では、それなりの音色的な融和が、特に第2楽章には確かに見られて、幸福な瞬間を体験することは困難ではありませんでした。いや、もしかしたら、ここでこそ彼らの「期待」が見事に成就していたのかもしれません。おそらくそれは、あまり動きを伴わない、音色だけで勝負できるような作られ方をしている楽章だったせいなのでしょう。しかし、両端の動きの激しい楽章では、少なからぬ違和感を抱く時間の方が多かったかもしれません。その主たる要因は、オルガンのあまりの運動能力の欠如です。それは、楽器が本来持っている特質なのでしょうが、そこに多くの人間が演奏に携わっていることも加わって、およそオーケストラの機敏さとはかけ離れた音楽しか提供できていなかったのです。
それでも、ショパンの場合はそのような弱点はそれほど気にはなりません。しかし、シューマンになるとそうはいかないことがはっきりしてきます。第2楽章のピアノとの掛け合いで、この楽器にこの協奏曲を演奏することは不可能であることが露呈されてしまうのです。
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この部分の弦楽器による合いの手のアーティキュレーションは、このオルガンではとても楽譜通りの鋭い演奏はできません。これに気が付いてしまうと、このバカでかいオルガンはまるで見世物小屋の出し物のような安っぽいものにしか聴こえなくなってきます。大の大人が6人もかかって出している音は、殆どサーカスのBGM程度のものにしか思えなくなってくるのです。それでシューマンのピアノ協奏曲を演奏したというのは、冗談にしてはたちが悪すぎます。

CD Artwork © Camerata Tokyo Inc.
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by jurassic_oyaji | 2014-01-12 20:33 | オルガン | Comments(0)