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BACH/Die Flötensonaten




福永吉宏(Fl)
小林道夫(Cem)
ワオンレコード/WAONCD-020/021


京都を中心に活躍しているフルーティスト、福永吉宏さんのバッハアルバム、偽作とされているものも含めて全ての「ソナタ」と、「無伴奏パルティータ」が収録された2枚組です。福永さんという方は指揮者としても活動されていて、バッハの教会カンタータの全曲演奏という、あの「バッハ・コレギウム・ジャパン」でさえまだプロジェクトの途上にある偉業を、20年の歳月をかけて成し遂げたということです。そのような広範なバッハ体験に裏付けられたこのソナタ集、そこには、彼なりの確信に満ちたバッハ像が反映されています。
演奏にあたって、彼は銀製の楽器と木管の楽器を使い分けるというユニークなことを行っています。いずれもヘルムート・ハンミッヒという、旧東ドイツの名工によって作られた貴重な楽器(木管の場合、頭部管はサンキョウのものが使われています)、ここでは、その音質の違いだけではなく、素材に由来する奏法の違いまで、存分に味わうことが出来ます。木陰で昼寝をしながら聴いてみるのも一興(それは「ハンモック」)。
有名なロ短調ソナタ(BWV1030)では、その木管の特質が遺憾なく発揮された素朴な演奏が繰り広げられています。中音から高音にかけてのいかにも木管らしい厚みがあり倍音の少ない音色と、メカニズム的な不自由さ(もちろん、木管とは言っても銀製の楽器と全く変わらないベームシステムなのですから、そんなことはあり得ないのですが)すら感じられるぎこちなさからは、ある種くそ真面目なバッハの素顔を垣間見る思いです。事実、演奏にあたっての楽譜の吟味は徹底的に行ったそうで、最先端の研究の成果を盛り込むという姿勢も、バッハの実像を再現することに大きく貢献しています。それは、次のイ長調のソナタ(BWV1032)で、楽譜が紛失してしまった第1楽章の欠落部分に、新バッハ全集(ベーレンライター版)のアルフレート・デュルによる補筆をそのまま採用するという姿勢にも、共通しているポリシーなのでしょう。
楽器を銀製のものに持ち替えて演奏された、有名な「シチリアーノ」が入っている変ホ長調ソナタ(BWV1031)になると、俄然表現に積極的なものが見られるようになったのは興味深いところです。おそらくこちらの楽器の方がより使い慣れているのでしょう、まるでゴム手袋を介在したのではなく素肌で触れあった時のように、楽器に対する密着感のようなものさえ感じられたものでした。その意味で、やはり銀製の楽器を使って演奏されたホ短調のソナタ(BWV1034)が、私にはもっとも完成度の高いものに思えます。この曲の第1楽章に「マタイ受難曲」と同じテイストを感じるという、カンタータ全曲演奏を成し遂げたものだからこそ到達できた境地をライナーで知ることが出来たのも、そのように思えた一因なのかもしれません。
チェンバロの小林道夫のサポートも見事です。ここには、最近のオリジナル楽器の演奏に見られるような意表をつく表現は皆無、日本の演奏家が「伝統」として大切に受け継いできた穏健なバッハ像が、関西の地で脈々と生き続けている姿は、それだけで感動的なものがあります。
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by jurassic_oyaji | 2005-06-27 19:40 | フルート | Comments(0)