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ブルクミュラー 25の不思議 なぜこんなにも愛されるのか
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飯田有抄・前島美保共著
音楽の友社刊
ISBN978-4-276-14333-3



「ブルクミュラー」と言えば、小さい頃(あるいは、ある程度おおきくなってから)ピアノの勉強をしたことがある人にとっては忘れられない単語に違いありません。それは「バイエル終わったから、次はブルクミュラーね」みたいなノリで語られる、ごく初歩的な段階での教材の話として、もっぱら登場していたものでした。「バイエル」にしても「ブルクミュラー」にしても、それぞれフェルディナント・バイエルとフリードリヒ・ブルクミュラーという名前の作曲家が作曲した練習曲のことなのですが、そんな作った人のことなどはすっかり忘れられ、単に「バイエル教則本」とか「25のやさしい練習曲」という「教材」の名前として、それらは認識されていたはずです。
現実には、バイエルさんに関しては最近ではかなりその人物像が一般的になって来たような印象はありますが、ブルクミュラーさんについてはそもそもどんな顔をしていたのか、というあたりから「謎」に包まれていたのではないでしょうか。まあ、別に顔が分からなくてもピアノの勉強には差支えはないでしょうから、そんなことはどうでもよかったのかもしれませんが。
ただ、ご存じのようにこのブルクミュラー(あ、もちろん練習曲のことです)には、技術的には全然難しくないのに、なんか奥の深い世界を味わわせてくれる魅力がありました。そのせいでしょうか、この曲集は、現在ピアノに携わっている人だけではなく、これを習っているあたりでピアニストへの道をあきらめた人までも含めた多くの人たちに愛されているような気がします。
そんな思いが昂じて、「ぶるぐ協会」などというブルクミュラーさんのことを研究する秘密結社(つまり、出版社のお仕着せ表記である「ブルク」ではなくあくまで昔の呼び名の「ブルグ」にこだわっているというマニアの集まりなのでしょう)を作ってしまった飯田さんと前島さんというお二人が、これまでの「調査」の成果として上梓したのが、この本です。
まず、この本の表紙に描かれた、お目目がキラキラしたかわいいブルクミュラーさんの似顔絵に、ちょっとびっくりしてしまいます。こんな顔をしていたんですね。知りませんでした。いや、それは当然だということが、読み始めてすぐに分かります。そこには彼の肖像画(リトグラフ)が掲載されているのですが、それは、彼女たちが2006年にフランスの国立図書館で発見し、初めて日本で紹介したものだというのですからね。そんな「足」で調べた、これもおそらく日本では初めて目に出来る彼のバイオグラフィーから始まって、この曲集の出版の歴史、さらには教育現場での受容史など、あらゆる方面からブルクミュラーさん本人と、その作品についての詳細なアプローチが並びます。これはもう圧巻としか言いようがありません。
執筆に当たっては、飯田さんと前島さんという、全く文章のテイストが異なるお二人が、それぞれの切り口で語っている、というスタンスが、なんとも言えない魅力を生んでいます。どちらも藝大の楽理科卒業という経歴ですが、飯田さんの方はプロのライターとしてご活躍なさっているとあって、文章はとても滑らか、時には「ウケ」をねらったようなツッコミまで交えて、軽快に論を進めています。一番受けたのは、音楽雑誌で何度か掲載されたブルクミュラーの特集記事に対してのツッコミですね。
一方の前島さんは、はっきり言って文章はヘタ、というか、そもそもエンタテインメントとしての文章ではなく、学術論文のようなちょっとした堅苦しさが残るものですが、それがちょっと滑りがちな飯田さんのパートの確かなフォローとなっています。彼女が担当した出版史のパートなどは、詳細で堅実な記述が光ります。21番の「天使の合唱」のコーダの最初の和音は、属7ではなく減7だというのが、今の現実です。

Book Artwork © Ongaku No Tomo Sha Corp.
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by jurassic_oyaji | 2014-02-03 20:18 | 書籍 | Comments(0)