MUSSORGSKY/Pictures at an Exhibition(arr. Breiner)
Peter Breiner/
New Zealand Symphony Orchestra
NAXOS/NBD0036(BA)このアイテムついては、
以前CDとハイレゾ・データでご紹介してありました。今回さらに
BAも入手、色々比較してみます。そもそも、
CDとは「帯」のキャッチコピーが違います。
BAは「これぞハイレゾ!」ですって。韻を踏んでますね(こういうのは、ふつう「おやぢギャグ」と言います)。
まずは、ダウンロード・データとの比較です。スペック自体は
24bit/96kHzと全く同じなのに、意外にも感じが違います。具体的には、例えば打楽器の音場などは、データの方がよりくっきりと決まっていて、
BAではそれがちょっと甘くなっています。ただ、弦のトゥッティなどでは、逆に
BAの方に広がりが感じられますし、音色も輝きがあります。長時間聴いていると、おそらく
BAの方が全体的により美しく感じられるのではないでしょうか。これはあくまで主観的なものですが、違って聴こえるのは間違いありません。
ただ、購入したデータは扱いやすさを優先させて、リニア
PCM の
WAVではなくロスレス圧縮の
FLACでした。もちろん、
BAの場合はリニア
PCMですね。理論的には、
FLACは解凍すれば元のデータと変わらないものになるのですが、その演算にかかる負荷が音質に影響を与えることが指摘されています。もしかしたら、そのあたりが違いとなって表れていたのかもしれません。もちろん、それは
CDとの違いとは比較にならないほど微小なものです。
ちなみに、トラックの切れ目は当然のことながら
BAは
CDと全く同じですが、データでは最後のトラック
12から
16の5つの部分が3つのファイルに別れています。さらに、これは「
e-onkyo」で購入したのですが、ファイル名に付けられた番号が間違っていたため、そうとは知らずに
ソートをかけて再生すると曲順がグジャグジャになっていました(この件を指摘したら、即座に直しましたが)。
そして、前回もちょっと触れた楽譜についての検証です。そこでは漠然と「原典版」と書きましたが、きちんと聴いてみるとブレイナーの編曲にはその最初期、
1931年に出版されたパーヴェル・ラム版の痕跡も見られます。ということは、おそらくラム版を下敷きにしたと思われる、
1939年に作られたレオポルド・ストコフスキ―の編曲なども参考にしているようなのですね。
それが、まずトラック2の「小人」
03:21でちょっと聴き慣れない音形となって現れてきます。自筆稿は「
G♭・
F・
B♭・
G♭」という音形で、ラヴェル版も自筆稿を元にした春秋社版もその形になっているのですが、これは次(
03:47)に出てくる同じような音形との類似性から、「最後の
G♭は
Fの誤記」というのが春秋社版の校訂報告の指摘で、ラム、そして、ストコフスキーとブレイナーはそれに従っているのですね。
↑ラム版
↑春秋社版
トラック4の「古城」では、リズムの面で同じようなことが見られます。
00:37で、ラヴェル版ではコール・アングレによって奏される、テーマの前半だけを使ったオブリガートの最初の音の長さは、「四分音符」になっていますが、これは春秋社版でも四分音符です。しかし、ラム版では「八分音符」になっていて、ブレイナーはここでもそれに従っています(楽器はオーボエ)。ただ、同じ型である
01:57のオブリガートの最初の音は、なぜか全てのピアノ譜では「付点四分音符」になっているのにラヴェル版だけは「四分音符」(ヴィオラ)。ここでブレイナーは、コール・アングレでそれを「八分音符」で吹かせています。これは、ストコフスキー版そのもの。こうすれば全てのテーマが同じリズムで始まるという整合性が保てます。
そして圧巻は、トラック16「キエフ」の05:14で現れる「A♭・A♭♭・G♭・F」という半音進行です。ここはそもそもリムスキー・コルサコフ版の初版の印刷ミスだったのですが、ラヴェル版ではそのまま「A♭・A♭・G♭・F」というダサい進行になっていたところです。
↑春秋社版
↑リムスキー・コルサコフ版
こんな風に、ブレイナーの編曲には、ただのどんちゃん騒ぎではないしっかりとした裏付けがあったのですよ。
BA Artwork © Naxos Rights US, Inc.