おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
SCHUBERT/Winterreise
c0039487_1943396.jpg



Jonas Kaufmann(Ten)
Helmut Deutsch(Pf)
SONY/88883795652




待望のカウフマンの「冬の旅」です。彼のシューベルトのリートと言えば、DECCA時代に「水車屋」を録音したものがありましたね。今回も相棒のピアニストはその時と同じドイッチュ、さらに、ブックレットにこの二人のインタビューが載っているのも、そのインタビュアーがトマス・フォイクトであることも全く一緒です。こうなると、いまさらながら「レーベル」というものの「軽さ」が痛感される昨今です。それにしても、ブックレットの紙質までも一緒だとは。
ただ、コンディションは「水車屋」とは全く別物の仕上がりとなっていました。あちらはライブ録音でしたが、今回はセッション録音、写真を見るとカウフマンとドイッチュはマイクを挟んで向かい合って演奏しているという、ライブではあり得ない形、そこで的確なコンタクトを取りながらの録音であったことがよく分かります。そして、エンジニアリングが今回はTRITONUS、ピアノの深い響きと、ボーカルの細かいニュアンスを捕えきった素晴らしいものです。
この前のフィッシャー・ディースカウを筆頭として、この曲に関してはバリトンが歌うものだという暗黙の了解がありますが、プレガルディエンの時に書いたように、この作品は本来はテノールのためのキーで作られています。ただ、それはもちろんオペラティックに朗々と歌われるテノールで、ということではありません。かといって、フォークトのようなノーテンキなリリックが場違いであることも事実、なかなか難しいものがあります。
カウフマンの場合は、オペラでの実績を見る限り、たとえばモーツァルトあたりではあまりに声が立派過ぎて、ちょっと無駄に張り切っているという感は否めません。やはり、本領を発揮するのは「ヘルデン」としてのレパートリーではないかと思っているのですが。ですから、シューベルトのリートなどでは、ちょっとした不安がよぎります。現に、前回の「水車屋」は、必ずしも満足のいくものではありませんでしたから。
この「冬の旅」では、しかし、1曲目の「おやすみ」から、余計な力が入っていない落ち着いた歌が聴こえてきて、そんな不安は振り払われてしまいます。低音はごく自然に響いていますし、高音になっても決して力まずに、ファルセットも混ざったようなソット・ヴォーチェで勝負していますから、オペラのような遠くの世界ではない、もっと身近な情景が広がります。そして、その高音の中には、常に何かを追い求めているような視線を感じることはできないでしょうか。それは、はるか高みにある存在への憧憬のように思えます。そう、この曲集の中でカウフマンが見せてくれているものは、小さな人間の持つある種の「弱み」だったのではないでしょうか。それは、たとえば時としてさっきのフィッシャー・ディースカウの中に見られるような高圧的に上から見下ろす視線とは、対極にあるものです。
そんなスタンスで歌われる11曲目の「春の夢」などは、まさにほのかではかない「夢」そのもののように思えます。だからこそ、中間部の「Und als die Hähne krähten」という、鶏の鳴き声に目を覚まして現実に引き戻されるシーンでも、ことさら頑張らなくても、ほんの少し声の張りを加えるだけで、見事に場面を変えることが出来るのでしょう。それは、その少し前5曲目の「菩提樹」での「Die kalten Winde bliesen」と、冷たい風が吹いた時にもすでに気づいていたことではありましたが。
最後の「ハーディー・ガーディー弾き」は、そんなソット・ヴォーチェの世界の集大成でしょうか。いくら憧れを募らせても、決して届く事はないという現実が、最後の唐突なクレッシェンドに込められていると感じられるのは、それまでのカウフマンの歌、そしてドイッチュのピアノがあまりにも優しすぎるせいだったからに違いありません。

CD Artwork © Sony Music Entertainment
[PR]
by jurassic_oyaji | 2014-03-01 19:44 | 歌曲 | Comments(0)