おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
BIRTWISTLE/The Moth Requiem
c0039487_2354168.jpg

Roderick Williams(Bar)
Nicholas Kok/
BBC Singers
The Nash Ensemble
SIGNUM/SIGCD 368




1934年生まれのイギリス作曲界の重鎮、ハリソン・バートウィッスルの合唱曲集です。タイトルの「モス・レクイエム」に反応して、つい買ってしまいました。「モス」というのはハンバーガーではなく「蛾」のことです。ジャケットにも、明かりに群がる蛾の群れが描かれていますから、これは間違いなく「蛾のレクイエム」ということなのでしょう。いったいどんな曲なのか、聴きたくなりませんか?
バートウィッスルという人は、「現代音楽の作曲家」によくある、時流に乗って自分の信念を曲げてしまうような軟弱な精神の持ち主ではないようです。このアルバムに収められている、全てこれが初録音となる作品を聴いてみると、その中にはもはや「現代音楽」の世界ではほとんど顧みられなくなってしまったいにしえの技法が、逞しく生き残っている様を見ることが出来るはずです。それは、難解さゆえに聴衆が離れていってしまった「無調」をベースとする技法です。はっきり言って「時代遅れ」の技法ですが、それこそ「予定調和」の世界にどっぷりつかっているこの時代にあっては、逆に新鮮なインパクトが与えられるものになっています。
2003年に作られた「The Ring Dance of the Nazarene」という、ナザレ人(キリスト)と群衆の対話という形で進行する曲は、「ダルブカ」というアラブ系の太鼓がのべつ打ち鳴らされる中で、木管アンサンブルがいかにもなセリエルのフレーズを演奏するというバックが整えられています。そこでバリトン・ソロと合唱はあくまで無調という枠の中でドラマティックな物語を完成させています。ダルブカとの絡みでリズミックな要素もふんだんに盛り込まれていて、退屈することはありません。
この中で最も初期の作品は1965年に作られた「Carmen Paschale」という無伴奏の短いピースです。もちろん無調ですが、ちょっとメシアンのようなテイストもある美しい曲に仕上がっています。途中で鳥の鳴き声のようなものが聴こえてきますが、これは合唱ではなくフルートで演奏されたものでした。テキストの中の「ナイチンゲール」に呼応して、楽譜には「鳥のように自由に」という作曲家の指示で、オルガンのパートが入っているのだそうです。ただ、これは本当はフルートを使いたかったらしく、それがこの録音では実現されたことになります。確かに、ここはオルガンの無機的な音では、合唱との対比があまり感じられないでしょうね。ここでフルートを吹いている、ナッシュ・アンサンブルのメンバーのフィリッパ・デイヴィースは、見事にこの場面にふさわしい異物感を表現しています。
このフルーティストは、例の「蛾のレクイエム」でも大活躍です。この作品は、2012年に出来たばかりの最新作(初演はラインベルト・デ・レーウ指揮のオランダ室内合唱団)、ロビン・ブレイザーの「The Moth Poem」からテキストが使われています、この詩はなんでも、夜中にピアノの中に飛び込んできた蛾が発する音からインスパイアされて作られたのだそうです。そんなサウンドを表現するために、ここでは女声合唱の伴奏として、アルト・フルートと3台のハープが使われています。曲の冒頭でハープの弦が軋むような音を立てるのが、蛾がピアノ線に当たる音なのでしょう。デイヴィースのアルト・フルートは、この楽器ならではの深みのある音色と、超絶技巧で音楽をリードしていきます。
様々な種類の蛾の学名がランダムに挿入された象徴的なテキストに付けられた合唱パートの音楽は、まさに無調のオンパレードですが、それを歌っているBBCシンガーズは、他の曲ともども、いかにも居心地の悪そうな演奏に終始しているように感じられます。おそらく、心から共感できない部分がそのまま表れてしまっているのでしょうが、そんなものを聴かせられるのはとても辛いものです。

CD Artwork © Signum Records Ltd
[PR]
by jurassic_oyaji | 2014-04-14 23:07 | Comments(0)