おやぢの部屋2
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MOZART/Die Entführung aus dem Serail
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Desirée Rancatore(Konstanze)
Javier Camarena(Belmonte)
Rebecca Nelson(Blonde)
Thomas Ebenstein(Pedrillo)
Kurt Rydl(Osmin)
Hans Graf/
Salzburger Bachchor, Camerata Salzburg
ARTHAUS/108 102(BD)




お馴染み、モーツァルトの「後宮よりの逃走」は、悪者だったはずの太守セリムが寛大な心でみんなを許して解放するというあり得ないエンディングですが、それゆえに演出家にとっては様々な「読み替え」の可能性を秘めているという魅力いっぱいの作品なのでしょう。2013年のザルツブルク音楽祭でこのオペラが上演された時には、その舞台はトルコではなく、なんとザルツブルクのさるお金持ち(「レッドブル」の社長)が作った飛行場になっていました。そこに2つある格納庫のうちの一つ、ハンガー8(アハト)ではオーケストラが演奏、そしてもう一つの、ハンガー7(ジーベン)で物語が進みます。ここは、その社長さんが自分の趣味で集めた飛行機やレーシング・カーのコレクションが展示されている博物館なのですが、そこを華やかなオート・クチュールと見立てての演出なのです。つまり、コンスタンツェはモデル、ブロンデはお針子として捕らわれていたというのがその設定のベース。ところが、この「舞台」には、客席がありません。それは、このプロダクションがテレビで生中継されるためのものだったから。ハンガー7の中にも、カメラの邪魔にならないように歩き回っている相当数の観客がいますが、本当の観客は、テレビの前にいる何百万人という視聴者たちなのです。歌手たちはまるで野外フェスのようにハンズフリーのマイクとイヤモニターを装着、ステディカムやカムキャットを含めた無数のカメラが彼らを追いかけ、その映像がヨーロッパ中にリアルタイムで流されたのですからね。
それがいかに大変なことであったのかは、このBDに収められているメイキング映像を見れば良く分かります。歌手たちは、ステージで歌うのとは全然異なるシチュエーションで、カメラの位置を的確に知りながら演技を行わなければなりません。なによりも、これは「オペラ」なのですから、オーケストラに合わせて「歌わ」なければいけないのですが、その頼りになるのはイヤモニターから聴こえてくる音声と、指揮者の姿を映したモニターを見ながら、カメラに入らない位置で指揮をしている副指揮者の動きだけ、それに慣れるためには、かなり長期にわたるリハーサルが必要だったはずです。
ところが、本番直前になって、すでにリハーサルを始めていたコンスタンツェ役のディアナ・ダムラウが突然キャンセルになったので、現場は大混乱。代役としてイタリアから直行したランカトーレには、なんと12時間の準備期間しかありまへん。これはあきまへん。とりあえず、太守役のトビアス・モレッティなどのサポートもあって、ランカトーレは演技に関してはそつなくこなしていますが、それで精いっぱい、歌の方はかなりいい加減になってしまっているのは、仕方のないことでしょう。
でも、他の歌手たち、中でもオスミンのリドルあたりの好演もあって、ハラハラさせられながらも無事に「生中継」は終わったようでした。
実は、この演出には飛行場ならではのサプライズが用意されていました。というのも、この生中継の時の映像をYouTubeで見ると、最後には4人がヘリコプターに乗って飛び立つ、という映像が確かにありました。ところが、このBDではその最も重要なシーンが丸ごとカットされていました。その訳は、カーテンコールのシーンで、ハンガー8からオーケストラの団員がハンガー7まで歩いてくるときに分かります。そこには、まだ地上に残っているヘリコプターがしっかり写っているではありませんか。「生」の時のヘリコプターが飛び立つシーンは、前もって用意してあった映像を差し込んでいたのですね。あとでここを見直して、この痛恨のミスに気づき、せっかくのシーンを泣く泣くカットしたのでしょう。結局、飛んでったはずの4人もカーテンコールに加わっているのですから、そんなことはどうだっていいのに。

BD Artwork © Arthaus Musik GmbH
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by jurassic_oyaji | 2014-06-03 22:57 | オペラ | Comments(0)