おやぢの部屋2
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Kirill Gerstein(Pf)
MYRIOS/MYR013(hybrid SACD)




このMYRIOSというのは、2009年に創設されたというまだ出来立てほやほやのレーベルです。これを作ったのは当時35歳の若者、シュテファン・カーエン。

彼はエンジニアにしてプロデューサー、さらにはジャケットのデザインまで手掛けるという、まさにこのレーベルを一人で切り盛りしている人物です。同じようにすべて自分一人でやらなければ気が済まなかったのは、ノルウェーの「2L」レーベルの創設者、モーテン・リンドベリでしょうか。
2L同様、このレーベルが打ち出しているのが「よい録音」です。あちらは「DXD」という超ハイレゾのPCMが売り物ですが、こちらはもっぱらDSDにこだわっているようですね。ご存知のように、DSDというのは編集が簡単にはできないというフォーマットですから、なかなか最初からDSDで録音するエンジニアは少なく、まずPCMで録音、それを編集してからDSDにしたものが、普通はSACDのマスターになっています。ですから、最初からのDSDということは、編集することをあまり考えないで、ライブ感を大切にした録音を行うということにつながるのではないでしょうか。まあ、中にはDSDで録音したものを一旦PCMにして編集、再度DSDに戻す、というやり方をする人もいるかもしれませんが、それだったら最初からPCMで録ればいいのですからね。
最初の数アイテムはCDでのリリースでしたが、最近ではすべてSACDとなって、カーエンのこだわりはそのまま聴く者に伝わるようになっています。しかし、そんな、まさに「手作り」によるアルバムですから、5年目に入っても、品番で分かるように今回で13枚しか出ていません。このレーベルを扱っているのが、あのNAXOS。毎月何十枚と新譜を出している会社が、こんなゆったりとした歩みのレーベルの面倒を見ているというのも、なんか救われる思いです。
今回のアーティストは、このレーベルの常連、ロシア出身のピアニスト、キリル・ゲルシュタインです。なんか辛そうな名前ですね(それは「キリキリ、下痢したいん」)。いや、彼は1979年生まれの若手、かつてバークリー音楽院でジャズ・ピアニストを目指していたこともあるというユニークな経歴の持ち主です。今回は「想像上の絵画」というタイトルを掲げて、ムソルグスキーの「展覧会の絵」と、シューマンの「謝肉祭」を披露してくれています。いずれの曲も絵画的なイマジネーションが元になって作られている、ということなのでしょうか。
まずは、「展覧会」から。もう冒頭の単音から、この録音のすばらしさがはっきりと伝わってきます。細やかなタッチや、ペダルによる音色の変化が、まさに手に取るようにくっきりと聴こえてくるのですからね。それでいて、まわりの残響も過不足なく取り入れられていて、ほんのりとした存在感が味わえます。
この「プロムナード」でゲルシュタインがおそらく意識して取り入れているテンポ・ルバートは、この曲のオーケストラ版を聴きなれた人にとってはちょっとした違和感を誘うかもしれませんが、そもそもあのラヴェル版のようなきっちりとしたパルスの中で語られる音楽ではないのだ、ということが、ここからは分かるのではないでしょうか。これは、あくまでもロシア風の「歩き方」なのでしょう。もしかしたら、少しお酒が入っている人なのかもしれません。
そんなルバートの妙は、「テュイルリー」あたりではさらにいい味になってきます。細かい十六分音符のパッセージは、オーケストラではオーボエ奏者とフルート奏者がくそ真面目に書かれた通りのリズムで演奏しますが、ピアノではもっと自由に、「ちょこまかと動く子供」をリアルに表現できるはずです。リズム通りに走り回る子供なんていませんからね。そんな、久しぶりに聴くピアノ版の楽しさを、存分に味わいました。
それがシューマンになったら、ピアノの音色が全く別物のように変わってしまったのにはびっくりです。これも、カーエンのマジックなのでしょう。

SACD Artwork © Myrios Classics
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by jurassic_oyaji | 2014-07-23 20:54 | ピアノ | Comments(0)