おやぢの部屋2
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Stabat Mater dolorosa
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Music for Passiontide
Graham Ross
Choir of Clare College, Cambridge
HARMONIA MUNDI/HMU 907616




ケンブリッジ・クレア・カレッジ合唱団は、例えば同じ大学のキングズ・カレッジ合唱団のように高音を少年が歌うという古典的な「聖歌隊」の編成ではなく、ごく普通の学生による混声合唱団です。とは言っても、1866年に創設された時には、やはり少年が入った「聖歌隊」でした。しかし、キングズ・カレッジあたりではそういう少年はカレッジに付属した教育機関があるのでしょうが、「クレア」の場合は普通の小学生が参加していたため、やがて少年の「調達」が困難になってしまいます。結局、1971年からは、学生の女声を加えた合唱団として再スタートを切ることになるのです。その時の指揮者はピーター・デニソンでしたが、1975年からは、あのジョン・ラッターが指揮者になります。彼は、そのポストを1979年にティモシー・ブラウンに譲りますが、それ以後もこの合唱団とは緊密な関係を保ち、彼らのレコーディングの時にはレーベルに関わらずプロデューサーとエンジニアをかって出ています。
さらに、2010年からは、グラハム・ロスが指揮者を引き継ぎました。彼の名前は、まず「ドミトリー・アンサンブル」の指揮者として知りましたが、このケンブリッジ・クレア・カレッジ合唱団とのアルバムも、例えばイモジェン・ホルストのアルバムなどで聴いたことはありました。
自身が作曲家でもあるロスのことですから、この「受難節の音楽」というサブタイトルを持つアルバムは、なかなか凝った作り方がされています。まずは、タイトルにある有名な「スターバト・マーテル」という、十字架上のキリストの亡きがらの脇にたたずんで悲しみにくれる聖母を描いた聖歌のテキストが、ロス自身が校訂したグレゴリオ聖歌の形で歌われます。ご存知のように、このテキストはかなりの長さがありますから、ひとくさり終わったところで、今度は後の作曲家が作った、やはり受難節の間に歌われるキリストの受難を題材にした作品が演奏されるという仕組みです。
その「作品」は全部で15曲、16世紀のトーマス・タリスから、現代、1985年生まれのここでの指揮者グラハム・ロスまでの非常に長いスパン、そして、作られた地域もスペイン、フランドル、ドイツ、イタリア、イングランドと広範にわたっています。まさに、これはグレゴリア聖歌をバックグラウンドとした、時空を超えた「受難音楽」の一大絵巻と言えるでしょう。
そうなってくると、そんな脈絡のない作品の配列でも、工夫が必要になってきます。まず並ぶのがヴィクトリア、ラッスス、タリスと言ったポリフォニーの大家たちです。正直、このあたりだとこの合唱団のパートごとの音色があまりに違うので、何か落ち着いて聴いていられないという不安感が漂います。しかし、そのあとにしっとりしたホモフォニーのジョン・ステイナーなどが続くと、彼らのピッチなどにはかなりの精度の良さがありますから、少しほっとさせられます。
しかし、その次のジェズアルド、「Caligaverunt oculi mei」になったとたん、この作曲家の、時代様式からはあまりに逸脱した「危険な」ハーモニーの存在感を、見事に伝えきっている合唱団の姿が現れます。おそらく意識してのことでしょう、その、ほとんど前衛的ですらある微妙なピッチには、打ちのめらせてしまいます。つまり、これはその次のロスの作品の伏線だったのでしょう。これが世界初録音となる「Ut tecum lugeam」のような不協和音すら厭わない作風こそは、今のこの合唱団の本分なのではないでしょうか。
そうなってくると、同じ存命中のジョン・サンダースが「The Reproaches」でアレグリの「Miserere」を下敷きにしている意味も伝わってきますし、ブルックナーの「Christus factus est」での攻撃的な表現も理解できてきます。そして、最後のデュリュフレの「Ubi caritas」が聴こえてくるころには、まんまとロスとこの合唱団が仕掛けた罠にはまってしまっていることに、聴き手は気づくことになるのろす

CD Artwork © Harmonia Mundi USA
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by jurassic_oyaji | 2014-07-25 20:59 | 合唱 | Comments(0)