おやぢの部屋2
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Alone
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Vincent Lucas(Fl)
INDÉSENS/INDE057




パリ管の首席フルート奏者、ヴァンサン・リュカのソロ・アルバムです。いや、これは文字通りの「ソロ・アルバム」、登場するのはフルーティストだけという、「フルート1本だけの曲」を集めたものです。
リュカは1966年(たぶん)生まれ、理科はあまり得意ではなく、幼少から音楽家を目指し、なんと14歳でパリの高等音楽院(コンセルヴァトワール)に入学したという「神童」です。卒業後は1984年から1989年まではトゥールーズ国立管、そして1989年から1994年まではベルリン・フィルに在籍していました。しかし、これらは首席奏者としてではなく、2番奏者としての契約だったようですね。ベルリン・フィルの首席は、この時期はツェラー、ブラウ、パユ以外にはいなかったはずですから。晴れて首席となったのは、パリ管に入団した1994年のことでした。それ以来、このオーケストラで活躍するかたわら、母校でも教壇に立っています。
このジャケット写真を見ると、普通のフルーティストとは違って、リッププレートをかなり内向きにセットしていることが分かります。まあ人それぞれですが、そうなると楽器全体を外側に回すことになり、右手などは手首が完全に楽器の上に来るという、見るからに吹きずらそうな形になってしまいます。でも、本人としてはこの方が吹きやすいのでしょうから、文句は言えません。そういえば、ベルリン・フィルのライブ映像を見た時に、そんな窮屈な格好で演奏しているフルーティストがいたような気がします。
フルート・ソロの曲で1枚のCDを作る時の、ひとつの見本のような曲目が、ここには並んでいます。まず外せないのはバッハの「無伴奏パルティータ」でしょうが、これを最初に持ってきて、さらに一番最後にバッハ・ジュニア(カール・フィリップ・エマニュエル)の「無伴奏フルート・ソナタ」を置くという、両端を18世紀に作られた曲で挟む趣向が、まず粋ですね。もちろん、その間はまさに「フルートの黄金時代」というべき20世紀の作品が並びます。
このバッハが、なんとものびのびとしたスタイルであるのには、なごみます。これがフランス人のエスプリというものなのでしょうが、堅苦しいと思われているバッハの音楽が、なんか、間に潤滑油でも垂らしたようにとても滑らかに聴こえます。彼、というか彼の国の人が大切にしているのが、垂直方向ではなく、水平方向の動きだという点も、とてもはっきり分かります。もちろん、そういうバッハに不満な人もたくさんいるでしょうから、あまりお勧めはできませんが、その流れの良さにはついそそられてしまいます。ただ、時折聞こえるトリルが、なんだか聴覚の限界を超えるほど早いのが、かなり耳触りではあります。これは、彼の楽器の構え方に関係しているのでしょうか。正直、この時代の音楽には全くふさわしいものではありません。
20世紀の部では、さぞやフランスものが集まっているだろうという予想を裏切って、ヒンデミットと、カルク・エラートというドイツ勢が幅をきかせていました。となると、さっきのバッハでの不満がやはり同じように襲ってくるのが分かります。ヒンデミットの「8つの小品」あたりは、やはりもうちょっとストイックな表現で迫ってほしいと思いますし、カルク・エラートの「ソナタ・アパッショナータ」も、この、ちょっと癖のある音列がここまであっさり吹かれていると、あまりに爽快すぎて物足りません。
となると、やはりイベールの「小品」とか、フェルーの「3つの小品」あたりが、まさに本領発揮ということになるのでしょう。豊かなビブラートに支えられて、「流れる」ように飛びまわる音たち、これぞ「おフランス」です。
そのフェルーの3曲目、「端陽」(12トラック)の冒頭で、ハムのようなノイズが入っています。これは明らかにエンジニアのミス、録音そのものも、演奏ノイズが変に強調されていて、とてもプロの仕事とは思えません。

CD Artwork © Indésens Records
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by jurassic_oyaji | 2014-08-08 20:55 | フルート | Comments(0)