おやぢの部屋2
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WAGNER/Der Fliegende Holländer
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Samuel Youn(Holländer)
Ricarda Merbeth(Senta)
Franz-Josef Selig(Daland)
Benjamin Bruns(Steuermann)
Jan Philipp Gloger(Dir)
Christian Thielemann, Eberhard Friedrich(Cho)/
Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
OPUS ARTE/OA 1140 D(DVD)




昨年、2013年のバイロイト音楽祭での「オランダ人」がパッケージでリリースされました。これはNHKとの共同制作で、その年の8月末にBSで放送されていました。その時はちゃんと日本語の字幕が出ていたはずですが、なぜかこのDVDBDも)には日本語の字幕はありません。それではNHKが制作に加わった意味がないじゃないですか。
このプロダクションは2012年のプレミアでしたが、その演出についてはかなりの抵抗があったそうですね。そのせいかどうか、この2年目の舞台では、だいぶ手直しが施されているようでした。ネットにある2012年の画像と比較すると、オランダ人とゼンタの衣装が変わっていました。これはかなり重要なポイントです。
1981年生まれという、超若い演出家ジャン・フィリップ・グローガーのプランは、確かにかなりぶっ飛んでいます。時代は現代に置き換えられていて、なんと言っても「船」や「海」が一切登場しない(ちんけなボートは出てきますが)というのがすごいところです。ただ、彼の言葉によれば、「海」というのは象徴的なメタファーとして組み込まれているのだそうです。ですから、オランダ人が登場するのはICチップに埋め尽くされた基板の中という、不思議な設定です。しかし、ワーグナーが作り上げたこの幽霊船の船長というキャラクターは、もともと「あの世」に属するキャストなのですから、こういう設定もありでしょう。現代社会における「あの世」とは、こんなバーチャルな世界なのです。年寄しかいません(それは「バーチャン」)。
対する「現世」、あるいは「俗世」に属するダーラントたちは、かなり「リアル」な扇風機メーカーの社長と社員ということになっています。ここはもうお金がすべてという世界、社員旅行帰りの「船員」ではなくて「社員」たちは、女たちに高価なドレスを買って来て歓心を引くことしか考えていないのでしょう。ダーラントは、オランダ人に札束を見せられれば、何のためらいもなく娘を売り払いますし。
実は、このような2つの世界は、ワーグナーがしっかり音楽の中で描いていたものでした。この作品の中でのダーラントやエリックのとことんロマンティックな音楽と、オランダ人のまわりのまるで未来を見据えたような音楽とのギャップはものすごいものがあります。それを、グローガーはそのまま2つの世界に置き換えただけなのですね。それがワーグナーの意図だったとは限りませんが、ここで出来上がったステージでは演出と音楽が見事にシンクロしています。
そのような聴き方をすると、オランダ人が「あの世」から「俗世」に近づいてくる過程が、音楽と演出の両面からはっきりと感じられるようになります。腕にナイフをあてても決して血が流れることはなかったゾンビ体質は、ゼンタに出会ったことで「改善」され、デュエットの中では堂々と真っ赤な血潮を流しています。同時に、その場の音楽はいともロマンティックに聴こえてくるのです。
エンディングでのちょっとした「小技」が、なかなか効いてます。オランダ人とゼンタがともにナイフで自刃した場面を、社員である「舵取り」が写真に撮ります。そこで一旦幕が下りるのですが、再度幕が開いたときには、扇風機の工場だったところでは、さっき撮った二人の姿をあしらったフィギュアが生産されています。そんなものまで「商品」にしてしまう「俗世」への、嘲笑なのでしょうね。
ティーレマンが、これほど劇的な指揮を出来るとは思っていませんでした。それに乗って、水夫の合唱から始まる長い合唱のシーンでは、エバーハルト・フリードリヒに鍛えられた合唱団が、素晴らしい演奏を繰り広げています。
カーテンコールで演出家が登場した時には、ものすごいブーイングが飛び交っていました。今年も、この「オランダ人」は上演されていましたが、その時はどうだったのでしょう。

DVD Artwork © Opus Arte
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by jurassic_oyaji | 2014-10-09 20:41 | オペラ | Comments(0)