おやぢの部屋2
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唱歌/Japanese Children Songs
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Diana Damrau(Sop)
Kent Nagano/
Choeur des enfants de Montréal
Orchestre symphonique de Montr©al
ANALEKTA/AN 2 9131




カナダのレーベルなのに、ジャケットの中央には「唱歌」という漢字が見えますね。これはすごいことだな、と思って調べてみると、インターナショナルなバージョンでは普通に「SHOKA」でした。やっぱりそういうことなのでしょうか

ということは、ブックレットの「対訳」での「ひらがな」も日本向けのサービスなのでしょうね。そう、まさかとは思ったのですが、このアルバムの中では、ドイツ人のディアナ・ダムラウも、カナダの児童合唱団も、しっかり「日本語」で歌ってくれていました。そして、対訳には「ひらがな」だけではなく、英訳と欧文表記による発音(いわゆる「ローマ字」とは微妙に異なります)が載っています。
もちろん、このアルバムを企画したケント・ナガノにとっては、日本語で歌われることは当然のことだったに違いありません。日本人四世としてアメリカで生まれアメリカで育ったナガノは、自分自身のルーツとして日本の「唱歌」をオーケストラ伴奏で演奏するというプロジェクトを始め、その成果がこのアルバムとなるのですが、その契機となったのが、彼の娘です。ある日ナガノが朝食に起きてくると、3歳になる娘が、「唱歌」のレコードを一生懸命聴いていました。そばでは彼の日本人の妻、児玉麻里が、一緒にそれを歌って娘に教えています。彼自身はそのような歌を聴かせてもらった思い出などはないにもかかわらず、そのメロディと日本語の歌詞は彼をいたく感動させるものでした。彼はすぐさま「唱歌」の資料を集め始め、このプロジェクトをスタートさせたのです。
1966年生まれのフランスの作曲家、ジャン=パスカル・バンテュスによって、それらの「唱歌」にはオーケストラの伴奏が付けられ、ソリスト、あるいは合唱団によって歌われる形になりました。それは、2010年の2月28日と3月2日に開催されたコンサートで演奏され、2011年の6月に、ソリストにダムラウを迎えてレコーディングが行われました。その録音が、やっと今になってリリースされたのですね。
「Wolf Tracks 狼のたどる道」でグラミー賞を取った作曲家のバンテュスは、映画音楽のオーケストレーターとしても活躍、「国王のスピーチ」や「ハリー・ポッターと死の秘宝」などのヒット作のオーケストレーションも担当しているのだそうです。そんな職人技を駆使して、ここでも、彼は日本の歌という素材を与えられても、変なオリエンタリズムなどは走らず、ナガノの思いを最大限に汲んで、まさに世界に通用する音楽を作り上げました。もっとも、それは場合によってはかなりリスキーな面も持ってしまいます。正直、まるで印象派のような和声は、素朴な「唱歌」の世界とは明らかな乖離を生んでいるという場面も見られなくはありません。なにしろ、イントロを聴いてその曲がなんだったのかを即座に判別できることは皆無でしたからね。
もしかしたら、このオーケストレーションによって表現されているのは、これらの「唱歌」がかつてこの国で愛されていた(現在では、「あかとんぼ」すら知らないという世代が生まれています)時に人々の中で共有されていた情感ではなく、日本人ですら感じることのなかったもっとグローバルな世界観だったのではないでしょうか。おそらく、今までは世界中のどこにも存在していなかったそんな「深い」ものを、ナガノは彼の嗅覚によって掘りあててしまったのではないか、そんな思いに浸ってしまったのは、モントリオール交響楽団のまるで墨絵のような渋い音色の弦楽器や、ティモシー・ハッチンスが奏でる渋いフルートのせいなのかもしれません。
そのようなコンセプトの中にあっては、児童合唱ほどの完璧なディクションはついに実現できなかったダムラウの「たどたどしい」歌も許されるはずです。メロディや歌詞は同じでも、これはもはや「日本の歌」ではないのですから。

CD Artwork © Analekta
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by jurassic_oyaji | 2014-10-11 20:29 | 歌曲 | Comments(0)