Valery Gergiev/
London Symphony Orchestra
LSO/LSO0757(hybridSACD, BD)
2000年に発足したロンドン交響楽団の自主レーベルである「
LSO LIVE」は、スタート時から音に関しては有名なエンジニアを起用するなどの吟味がされていました。ハイレゾについても積極的な姿勢を取っていて、
2004年の末には
CDと並行して
SACDでのリリースを開始、ほどなく全ての商品がハイブリッド
SACDとなりました。そしてこのたび、ついにブルーレイ・オーディオ(
BA)にも手を伸ばすことになりました。その第1弾として発売されたこの「幻想」では、ハイブリッド
SACDと
BDの2枚組という形になっています。つまり、2チャンネルステレオ音声ファイルとしては
16bit/44.1kHzの
LPCM、
2.8MHzの
DSD、そして
24bit/192kHzの
LPCMの3種類がある上に、サラウンドのソースも加わっているという賑やかなラインナップとなっているのです。
さらに、
BDには
BAとしての音声ファイルの他に、映像データも入っています。こちらももちろん音声はハイレゾ、画面も
HDです。
まるで、ベルリン・フィルでも意識したかのような、こんな映像ソフトへの傾倒にも惹かれますが、やはりここに来て他のレーベルがやや消極的になっているように感じられる
BAをこのタイミングで導入してきたというところに、なにか熱いものを感じてしまいます。この路線はぜひとも突き進んでいただいて、
BA導入が単なる気まぐれの産物ではないことを証明してもらいたいものです。
ということで、まず行ったのは
SACDと
BAとの比較です。その結果、
BAの方が、明らかに生々しい音が聴こえてくるのに対して、
SACDはなにかヴェールに覆われた(それは、非常に繊細なヴェールではあるのですが)ような、おとなしい感じだという、今までに他の素材で同じことをやった時に感じたことと全く変わらない体験が待っていました。特に弦楽器の高音のナチュラルな伸びは
BAだけのもの、
SACDではなにか頭打ちの感じが付きまといます。
ただ、このレーベルの場合は、オリジナルの録音は
DSDで行われていることが明記されています。ですから、普通に考えればいくら
PCMのサンプリング周波数が
192kHzだとしても、
2.8MHzの
DSDであれば単なるオーバー・サンプリングにしかならないのですから、
SACDの方に利があるはずなのに、結果はそうではありませんでした。もしかしたら、同じ
DSDでも、録音の際には
5.6MHzのスペックだったのかもしれませんね。別の言い方をすれば「
64DSD」ではなく、「
128DSD」でしょうか。だとしたら、この
BAは、現行のパッケージでは扱うことのできない「
128DSD相当」の音を味わえるソフトということになりますね。そういう意味での「今までの
BAを超えた」
BAの投入ということなのであれば、もう大歓迎なのですがね。ただ、この
BDも
SACDも、かなり録音レベルが低いのがちょっと気になります。
映像
BDではレベルは通常のものと同じでした。こちらは音声のスペックも記載されていませんし、サラウンドでもないようです。ここでは、指揮者のゲルギエフが、「つまようじ」で指揮をしている様子はよく分かりますが、なにかカメラ割りがいい加減で、そこでぜひ聴きたい楽器がアップになっていない部分は数知れず(どんな「鐘」を使っているの
かね、と思ったのですが、とうとう画面には現れませんでした)、さらに、「寄り」ばっかりで全景を写したカットが全然ないのが非常に不思議です。ただ、この映像では第5楽章でクラリネットがちょっとしたミスをしているところが、
SACDやBAでは他の
テイクが差し替えられて修正されています。そういう細かい編集を
DSDで行うのはかなり大変なことのような気がするのですが、果たして本当のところはどうなのでしょう。
ゲルギエフの指揮は、とことんこの作品のアブノーマルな部分を強調した、とても楽しめるものでした。第5楽章の「
Dies irae」が終わって、ロンドのテーマがチェロ→ヴィオラ→ヴァイオリンとカノンでつながっていく部分(
07:02から)などは、背筋がぞくぞくするほどブキミです。10年以上前の
ウィーンフィルとの録音とはかなり手応えが違います。
SACD & BD Artwork © London Symphony Orchestra