おやぢの部屋2
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棒を振る人生
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佐渡裕著
PHP研究所刊(PHP新書951
ISBN978-4-569-82059-0



佐渡裕さんは、ご存知の通り世界的な指揮者として活躍するかたわら、「題名のない音楽会」の司会者として、全国の「お茶の間」にもその姿が浸透している人気者です。正直、忙しいスケジュールの中でほぼ毎週そのテレビ番組に出演しているというのは、かなりすごいことなのではないかと思っているのですが、さらにその隙を縫ってこんな本まで書き上げてしまうのですから、驚いてしまいます。なんでも、これが「単著」としては3冊目のものになるのだそうですね。もちろん、そんな忙しい中でもきっちりとご自身でペンを走らせて(あくまで比喩ですが)いるのは、その畳み掛けるような勢いのある文章からも分かります。最後に、ジャーナリストの方の名前が「編集協力」という肩書でクレジットされていますが、この方は客観的にデータを整えたりしたのでしょう。ご本人の記憶には、えてして勘違いというものがありますからね。
前半は、「楽譜とは何か」とか「指揮者とはどういうものか」ということに関しての、佐渡さんなりの的確な「解説」の部分です。ここでは、彼の師であったバーンスタインと、その作品を引き合いに出して、興味深い逸話が語られます。となると、当然そのバーンスタインの「天敵」であったカラヤンの話も登場することになります。そこでその頃のベルリン・フィルの団員だったゴールウェイの名前が出てくるのには驚いてしまいます。なんでも、彼はバーンスタインの姿をプリントしたTシャツを着てカラヤンのリハーサルに臨んだのだそうですね。そしてそのあとに、ゴールウェイがベルリン・フィルを辞める時には、その最後の演奏会でアンコールにラヴェルの「ボレロ」を、ゴールウェイのソロで演奏した、という逸話を紹介しています。そんなことがあったのでしょうかねえ。ゴールウェイの自伝によれば、最後のシーズンが始まる前に辞表を提出した後は、カラヤンが指揮をする演奏会では全く出番がないようになっていたはずなのですから、「最後の演奏会」でそんな粋な計らいを受けたとは考えにくいのですが、さすが、カラヤンはオトナだった、ということなのでしょうかね。
後半では、佐渡さんの最近の活動について述べられています。その中で注目されるのは、やはり兵庫県立芸術文化センターの芸術監督としての仕事ぶりでしょう。阪神淡路大震災の震災復興事業の象徴として建設されたこの建物は、佐渡さんの尽力で単なるホールではない、豊かな成果を産み出しています。震災を乗り越えて、ホール専属のオーケストラを作ったり、オペラまで上演できるようになってしまうなんて、うらやましすぎます。というのも、その後に起こった東日本大震災では、そのような確固たるビジョンを持った事業などは全く期待できない状況にあるのですからね。いや、たしかに音楽ホールを作ろうとするような動きはありますが、それはどうやら薄汚い利権が絡んだ、将来の展望など望むべくもない計画のようですしね。
そして、最後を飾るのが、最新のトピックス、ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督就任のニュースです。この部分の佐渡さんの筆致は、かなりハイテンションのように思えます。それだけ、本場ウィーンで「自分のオーケストラ」を持つことが出来るようになったことがうれしいのでしょう。そこから止めどもなくほとばしる将来への思いには、熱いものがあります。なんたって、この決して知名度が高いとは言えないオーケストラを「ウィーン・フィルよりいい音のするオーケストラ」にしたいと言っているぐらいですから。
そんな充実した人生を送っている人の本のタイトルがまるで「棒に振る人生」のように読めてしまうのは、ジョークでしょうか。そんなマゾっぽいセンスは、この人は持っていないような気がするのですが(いや、彼はサド)。
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by jurassic_oyaji | 2014-10-21 23:03 | 書籍 | Comments(0)