おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
BACH/Matthäuspassion
c0039487_20191673.jpg
Charles Daniels(Eva/Ten), Peter Harvey(Jes)
Joanne Lunn(Sop), Margot Oitzinger(Alt)
Wolf Matthias Friedrich(Bas)
Rudolf Lutz/
Chor & Orchester der J.S.Bach-Stiftung
J.S.Bach-Stiftung/B006




 1984年にヘルムート・リリンクによって一人の指揮者によるバッハの教会カンタータ全曲録音が初めて完成されて以来、多くの人たちがこの偉業を目指して頑張っています。その中には、めでたく完成を迎えたものもあり、この宝石のような名作たちを全て味わうことも比較的簡単になってきました。そんなところに、最近になって今までにないような手法で、教会カンタータのみならず、バッハの声楽作品をすべて録音しようという人が現れました。それは、スイスのバーゼル・スコラ・カントルムで教鞭を取っているオルガンの即興演奏のオーソリティ、ルドルフ・ルッツです。
 彼が取り組んだカンタータ・ツィクルスは、今までの人たちとはちょっと違ったやり方をとっています。彼は、1999年に、さる実業家と協力して「ザンクトガレン・バッハ財団」という個人的な財団を創設し、様々な準備を経て、2006年から毎月1回のペースで、まずは教会カンタータを教会で演奏、それをDVDとCDで販売しつつ、全曲演奏を目指すというプロジェクトをスタートさせました。その演奏も、始まる前に指揮者が聴衆と一緒にそこで演奏されるカンタータのコラールを歌ったり、様々な分野のゲストによるそのカンタータにちなんだトークを挟んで、全曲を2回演奏するというユニークなものです。つまり、同じ曲を繰り返して聴いたり、お話を聴いたりということで、作品に対する理解がより深まることを目指しているのでしょう。かなりの反響を呼んでいるこの「参加型」のコンサート、現在までにおよそ三分の一のカンタータが演奏されていますから、あと10年もすれば完成してしまうことでしょう。
 このコンサートの模様が、DVDにはそのまま収録されているのですが、それが今のところはヨーロッパの規格であるPALによるものしか出ていないのだそうで、日本で発売になるかどうかは微妙です。でも、PCでは再生出来るのでしょうから、そんなユニークなコンサートだったらぜひ見てみたいものですね。CDでは、普通に演奏が1回だけしか入っていないようですし。
 その、カンタータを演奏してきたメンバーが集まって、2012年にスタジオで録音されたのがこのCDです。毎月のコンサートを続けてきている間に、ソリスト、合唱団、オーケストラのいずれもが、指揮者のルッツのまさに「楽器」として成熟して、「録音しよう!(レッツ・レコード!)」ということになったのでしょう。
 まず、注目すべきは安定した合唱でしょう。もちろん、これは最近よくある少人数の合唱ではなく、かなりの大人数、しかし、そのアンサンブルはとても緻密ですし、表現も細やか、そして何よりも落ち着きのある「大人の」声が最大の魅力です。
 ソリストでは、エヴァンゲリストと同時にソロまでこなしているダニエルズの伸びやかな声に惹かれます。イエスのハーヴェイの暖かさもいいですね。ただ、その他の歌手はちょっとこの二人の域までは達していないかな、という気がしないでもありません。
 そんな些細なことにこだわらなくても、この長大な作品の隅々までに自身の音楽を浸透させた、ルッツの指揮ぶりには、圧倒されるはずです。小気味良いテンポに乗っての冒頭の合唱から、そのしなやかな運びには引き込まれてしまいます。そして、彼の音楽の本質はなんと言っても即興演奏、エヴァンゲリストのレシタティーヴォをサポートするチェンバロが、とても自由な即興を聴かせてくれている(コラールの間奏にチェンバロ・ソロ、などという場面も!)といったように、演奏家たちはあくまで伸び伸びとしたプレイを披露してくれています。それが、今までのピリオド楽器とは一味違う暖かいサウンドの上に作り上げられているのですから、たまりません。これまでのどんな演奏とも違う、刺激的な上に極上の肌触りを持つ「マタイ」、いつの間にかこんな素晴らしいものが聴ける時代になっていました。

CD Artwork © J.S.Bach-Stiftung St.Gallen
[PR]
by jurassic_oyaji | 2014-11-02 20:20 | 合唱 | Comments(0)