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オペラ座のお仕事/世界最高の舞台をつくる
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三澤洋史著
早川書房刊

ISBN978-4-15-209489-6




著者の三澤さんの名前を知ったのは、Facebookで目にした彼のサイトの書き込みからでした。そこで述べられていたことは、確か合唱コンクールの全国大会での審査員を務めたときの感想だったはずですが、詳細はすっかり忘れてしまいました。ただ、なんか、合唱界(というか、「合唱コンクール界」)のタブーのようなものに踏み込んで、とても鮮やかに正論を展開していたという印象だけが残っています。このコンクールの審査員といえば、ほとんどがおよそ全体の音楽を聴かずに、重箱の隅をほじくるような技術的な点だけで評価を下す人たちだと思っていたので、なにかとても救われたような気持になったことをよく憶えています。
今回、おそらくそのようなサイトの書き込みが内容の骨子になっていると思われる書籍が出版されました。タイトルから判断すると、彼の本来のポストである新国立劇場の合唱指揮者の仕事ぶりを語ったもののようですから、面白くない訳はないと、即座に入手してみましたよ。
それは、面白いどころではなく、まさに「面白すぎる」本でした。読み始めたら途中でやめるのも惜しいぐらい、次々と興味ある話題が湧きだしています。もう一気に最後まで読み通してしまいました。だいぶ前に、こんな感じの、夢中になって読みふける本があったな、と思ったら、それは茂木大輔さんの一連のエッセイでした。両者の「面白さ」に共通するのは、なんと言ってもその文体の躍動感。そこからは、自らのリズム感で他人を酔わせてしまうという、良質な音楽家であれば誰しもが持っているグルーヴを感じることが出来ます。
茂木さんの著作同様、ここでも三澤さんのまさに波乱万丈の経歴が語られています。そもそも、彼は音楽には関心があったものの、合唱の経験は全くなく、最初はトランペットをやっていたものが、高校に入った時にはブラスバンドで打楽器をやろうとしていました。ところが、そこに、隣から聴こえてきた「男声合唱」の響きに魅せられて合唱の世界に足を踏み込むという、なんとも不思議な体験が「合唱人」としてのスタートだというのですからすごいですね。
とは言っても、本当になりたかったのは「指揮者」、それも、「合唱指揮者」ではなく、ちゃんとしたオーケストラを指揮するような指揮者でした。そのために国立音大を卒業後(ここでは指揮科ではなく声楽科)ベルリン芸術大学で本格的な指揮の勉強をすることになります。それは、まさにシンフォニー・オーケストラの指揮者を目指す道、事実、三澤さんは単なる合唱指揮だけではなく、オペラそのものの指揮もしっかりなさっているようです。
現在は、いつの間にかしっかり日本にも「オペラのシーズン」というものを定着させてしまった本格的な(つまり、外国のものと同じ質の)オペラハウス専属の合唱団のシェフとして、日々「本物の」オペラの現場で活躍されています。常々、「新国立劇場の合唱団はすごい!」という噂をあちこちで聞いていますが、そんなすごい合唱団を作ってしまった張本人ということになるわけです。その合唱団に求めるサウンドも、実際にバイロイトでノルベルト・バラッチュのアシスタントを務めた経験なども踏まえた上で、最初から「バイロイトと同じもの」というレベルの高さだったのですが、結局「新国」の日本人にはドイツ人を超えることはできないことを知って深刻な壁を感じてしまうと思いきや、後に今度はミラノのスカラ座で研修を受けたことによって、その「壁」はあっさり克服できたという、とてもハッピーな結末が用意されていました。もはや、この合唱団には、何も怖いものはないのでしょう。
そんな、今では「バイロイトを超えた」とまで自画自賛している合唱団を聴きに、ぜひいつの日か新国立劇場を訪れてみたいものだ、と、切実に思わせられてしまいました。

Book Artwork © Hayakawa Publishing Corporation
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by jurassic_oyaji | 2014-11-08 19:30 | 書籍 | Comments(0)