おやぢの部屋2
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HOSOKAWA/Orchestral Works・2
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Jun Märkl/
Royal Scottish National Orchestra
Orchestre National de Lyon
NAXOS/8.573276




先日の「第1集」に続いての、NAXOSレーベルからの細川俊夫のオーケストラのための作品集です。しかし、このジャケットは、これを見てワーグナーの「リング」なのではないか、などと思ってしまう人もいるのではないかと心配してしまうような、ミスリーディングを呼びかねないデザインです。細川が「リング」に触発されて作った作品なのかな?とかね。この人の場合、何かに「触発」されて曲を作ることが多いようですから、ありえないことではありません。しかし、その気になってよく見ると、そのリングの内側には水面が描かれているように思えてきませんか。
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おそらく、この安野光雅の「だまし絵」のように、このリングの真ん中に円筒形の鏡をおけば、そこには広大な海原が広がっていることでしょう(うそですからね)。この場合は、それが丸くつながっていますから、まさにここに収録されている「Circulating Ocean 循環する海」という作品のタイトルに呼応することになるのです。
このタイトルを聞いて、以前同じ曲が、それこそ「海」をテーマにした代表作である、ドビュッシーの「海」とカップリングされていたアルバムを聴いていたことを思い出しました。そんなに昔のことではないのに、もう別の録音が、しかも同じレーベルから出るなんてさすがは世界的な作曲家、と思ってしまいましたよ。ところが、良く見てみるとこれは全く同じ音源でした。確かに、バック・インレイには「過去にリリースされています」という但し書きがありましたね。まあ、こういうことはよくあるのでそれほど腹は立ちませんが、それを「世界初録音」と言っているのは、ちょっとおかしくないですか?確かに、前のCDが出た時点では間違いなく「初録音」だったのでしょうが、今回はリイシューなのですから、もう「初録音」とは言う資格はなくなっているのではないでしょうか。そのいい例が「新人賞」と呼ばれるもの。これは、どんな人でも1回しかもらえないのですからね。
「第1集」でも感じたことですが、この作曲家の技法はどうやらすっかりこのようなひたすら時の流れに身を任すというスタイルに固まって来たようですね。いつ始まったのかも、そして、いつ終わったのかも分からないような、まるで常に流れている時間のほんの一部だけを切り取って来たのではないか、と思えるような作り方は、それだからこそ永遠に続いて行く自然の営みを的確に描ききることが出来るのでしょう。2005年に作られた「循環する海」を最初に聴いた時には、そんな、あまりにも作り手の主体性が感じられないやり方に一抹の不安を抱いたものですが、こうして最近の作品を並べてみることによって、そんなやり方の本当に目指すものがやっと理解出来たような気がします。
構造的には2007年に弦楽四重奏のために作られた「Blossoming 開花」と同じものである2011年のオーケストラ曲「Blossoming II 開花 II」で見られた、ポリフォニーによるテーマの模倣のようなものも、2009年に作られた「Woven Dreams 夢を織る」でははっきりした外形を消滅させています。そして、さっきの「海」にはまだ残っていた色彩的な和声感は、「夢~」ではほとんど姿を消しています。それは、あたかも和声の持つ先入観からは自由になった原初的な表現のみによって、心の深いところにまで迫ることのできるスキルを手に入れたかのように思える変化です。
もしかしたら、「海」でそのように感じたのは、演奏している団体が異なっていたからなのかもしれません。かなり響きがブレンドされているような録音も、その印象を強くさせるものだったのでしょう。つまり、ここでは「海」が「世界初録音」のアルバムからの「引用」であったことが重要な意味を持っているのでした。ですから、先ほどのようなアルバムの表示は、このアルバム自体のコンセプトにも背いていることになります。

CD Artwork © Naxos Rights US, Inc.
by jurassic_oyaji | 2014-11-28 20:37 | 現代音楽 | Comments(0)