おやぢの部屋2
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HAYDN/The Sonatas for Flute and Piano
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Nicola Guidetti(Fl)
Massimiliano Damerini(Pf)
DYNAMIC/CDS 7698




「ハイドンのフルート・ソナタは、ありまぁす!」と記者会見で明言した人がいるように、確かにそういうものは存在していますし、もちろん出版もされていますから、実際に演奏したことのある人だっているはずです。しかし、かつて「ハイドンのフルート協奏曲」と言われていたものが、実際はハイドンと同じ時代にウィーンで活躍していたレオポルド・ホフマンの作品だったというように、この頃の作曲家のクレジットに関してはかなりいい加減なところがあります。そもそも、当時は「著作権」などという概念はありませんでしたから、名の知れた作曲家の名前で他の作曲家の曲を出版するというのは日常茶飯事だったのです。あるいは、人気作曲家の曲を勝手に編曲して出版したところで、なんの罪に問われることもありませんでした。
そして、この「フルート・ソナタ」も、そんなたぐいの限りなく「贋作」に近い代物です。ただ、贋作者には贋作者なりのプライドがあったとみえて、ハイドンの「真作」を素材にする、というところで最低限のモラルは果たしたつもりにはなっているところが、かわいいというか、図太いというか。
その「贋作者」の名前はアウグスト・エバーハルト・ミュラー。ライプツィヒの聖トマス教会のカントールを務めたという立派な音楽家ですが、有名な音楽出版社、ブライトコプフ・ウント・ヘルテルの顧問としての「仕事」も数多く手がけていました。そのひとつが、この「ハイドンのフルート・ソナタ」と言われるものです。
ハイドンのウィーンでの晩年は、まさに「人気作曲家」で、弦楽四重奏曲の楽譜などはとてもよく売れたそうです。ですから、出版社としてはさらに「新作」でウハウハ儲けたいところなのですが、もはや作曲家は多作には耐えられないような健康状態だったために、なかなか思い通りの「原稿」は手に入りません。そこで、出版社は「顧問」の力を借りて、作曲家のすでに出版されていた弦楽四重奏曲の中から3曲を選んで、それをフルートとピアノのためのソナタに編曲した楽譜をでっちあげ、それを「ハイドン作曲」ということにして出版したのです。もちろん、その際には今まで付けてきた作品番号に続けて、「ハイドンの新作」としての作品番号を付けたことはいうまでもありません。それぞれの「元ネタ」は、1797年に出版したハ長調のソナタ「Op.87」は、1793年に出版されたOp.74-1(Hob.III:72)、1803年に出版した変ホ長調のソナタ「Op.90-1」とト長調のソナタ「OP.90-2」は、それぞれ1797年のOp.76-6(Hob.III:80)と1799年のOp.77-1(Hob.III:81)という弦楽四重奏曲です。
ミュラーの作った「フルート・ソナタ」は、元の弦楽四重奏曲をほぼ忠実にフルートとピアノに編曲したもので、それぞれの楽器がほど良く活躍するようになっている、なかなかの「職人技」が感じられるものです。ただ、その際にオリジナルの第3楽章のメヌエットをカットして、4楽章形式だったものを3楽章形式にしてあります。
そんないわくつきの作品の全曲をこのイタリアのレーベルに録音したのは、イタリア国内では確固たる名声を誇っているフルーティストのニコラ・グイデッティと、自身も作曲家で現代曲の初演なども手掛けているピアニストのマッシミリアーノ・ダメリーニです。このピアニストの名前を見ただけで、なんだか力が抜けてしまいますが、フルーティストのもはやピークは過ぎたテクニックと音楽性は、いかにもこのレーベルらしい薄っぺらな音と相まって、これらの「贋作」を聴くも無残な姿にさらけ出していました。
ちなみに先ほどのホーボーケン番号にも反映されている83番まである弦楽四重奏曲の番号は、もはや現在では偽作があったり作曲順ではなかったりと、正しい番号とは言えなくなっていますが、それがきちんと直された68番までの番号が広く使われるようになることは、まずあり得ないでしょう。だから、別に「贋作」だからと言って騒ぎ立てることもないんですよ。

CD Artwork © DYNAMIC S.r.l.
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by jurassic_oyaji | 2014-12-20 21:12 | フルート | Comments(0)