おやぢの部屋2
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STRAVINSKY/Le Sacre du Printemps
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David Zinman/
Tonhalle Orchestra Zurich
RCA/88843095462




去年、2013年は、ストラヴィンスキーの「春の祭典」が初演されてから100年目ということで、世界中でこの曲が演奏され、録音もされていました。そんな中には、その初演の時に使われていた楽譜は、現在出版されているものとは多くの点で異なっていたことに注目して、その当時の資料を用いて演奏したというものもありました。それが、以前聴いていたロトの録音ですね。それは、なんせ「レコード・アカデミー賞」という、国内では最も権威のあるクラシックのレコードに対する賞の中でも最高位の「大賞」を獲得してしまったのですから、すごいものです。まだ国産ウィスキーも完成したばかりだというのに(それは「大将」)。個人的には、この賞や、この賞を主催している出版社に対しては業界べったりの胡散臭さを感じているものですから、素直には喜べないのですが、まあ多くの人にこんな地味な仕事を聴く機会を与えてくれたことは間違いないので、その点だけは評価できるでしょう。
ところが、同じ時期に同じような「地味な仕事」をやっていたもう一人の指揮者がいたのですね。その指揮者の名はデイヴィッド・ジンマン、あの「ベーレンライター版のベートーヴェン」の録音を世界で最初に発表したことで一躍有名になった男です。「春の祭典」の初演の日時は、正確には1913年5月29日ですが、ロトが演奏したのは5月14日、ジンマンは6月7日ですから、今回はロトに「1番」の名誉を奪われて、さぞかし悔しかったことでしょうね。
それなら、別のことで目立ってやろうと考えたのかどうかは分かりませんが、ジンマンの場合はその「1913年版」と、現行の出版譜である「1967年版」とを、同じ日に並べて演奏するというとんでもないアイディアを打ち出しました。コンサートの前半は1913年版、休憩をはさんで後半に1967年版というものです。もちろん、ただそんなことをやってもお客さんは退屈するだけでしょうから、それに先立ってそれぞれの版の一部分を実際にオーケストラを使って演奏してもらい、その違いを実際に耳で確かめていただこうという、まるで「題名のない音楽会」みたいなこともやっています。そんなお茶目なことも、この人は出来るんですね。なんせ、そこではわざわざフランス国立管弦楽団のバソン奏者、フィリップ・アノンを連れてきて、冒頭のファゴット・ソロの部分をチューリッヒ・トーンハレのファゴット奏者と「聴き比べ」までさせてくれるのですからね。
そんなコンサートの全容を、ここでは2枚組のCDにすべておさめています。それでいて価格は1枚分というのは良心的。ただ、そのトークの部分で、英語、ドイツ語、フランス語が飛び交っているのは、ちょっと辛いですね。これは国内盤も出るようですから、その時にはきちんと翻訳されたテキストが添付されることでしょう。
同じ1913年版と言っても、ジンマンはロトとはほんの少し異なるものを用意していたようです。ロトは、あくまで初演の時に鳴り響いた音を再現するのだ、というコンセプトで、自筆稿だけでなく、ほかの資料も参照して初演までに改訂された部分まで含めてきっちりと再現しようとしていますし、もちろん楽器もその当時のものを可能な限り用意していました。しかし、ジンマンはその自筆稿にあくまで忠実に演奏しようとしていたようです。つまり、作曲家の書いた間違いまでもここでは再現されているのです。これは、冒頭のファゴット・ソロが2回目に現れる部分の最後ですから、すぐに気づくはずです。
そんな些細なことはどうでもいいのですが、結局こんな過酷なことを強いられたオーケストラの苦労はどんだけのものがあったのでしょう。あくまでそれぞれの楽譜に「忠実に」演奏することにとらわれた挙句、全く「死んだ」音楽しか作りだすことが出来なかった責任は、もちろんこんな無謀なことを企てたジンマンが負うべきものです。

CD Artwork © Sony Music Entertainment Switzerland GmbH
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by jurassic_oyaji | 2014-12-27 00:59 | オーケストラ | Comments(0)