おやぢの部屋2
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Sacrifices
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David Bates/
La Nuova Musica
HARMONIA MUNDI/HMU 807588(hybrid SACD)




聖書に題材を求めた「生贄」をテーマにした作品が3曲収められたSACDです。その中でメインとも言えるものが、中期バロックのイタリアの作曲家ジャコモ・カリッシミ(1605-1674)のオラトリオ「エフタの物語」でしょう。これは、旧約聖書の士師記に登場する、エフタが戦に勝つ代償として、彼の娘を「生贄」として差し出すという悲しい結末のお話です。
あとの2曲はフランスの作曲家で、その「エフタの物語」を写譜して自国に持ち帰ったというマルク=アントワーヌ・シャルパンティエ(1643-1704)が作った、「聖ペテロの否認」と、「アブラハムの生贄」です。「ペテロ」は、バッハの受難曲では有名な新約聖書の見せ場ですし、「アブラハム」は旧約聖書の創世記による、これも有名なアブラハムが息子イサク(木こりではありません・・・それは「与作」)を生贄に捧げるというお話です。こちらは直前に生贄の羊が現れてイサクは助かります。
ここで演奏しているイギリスの「ラ・ヌオヴァ・ムジカ」という、2007年に設立されたばかりのイギリスの団体は、器楽と声楽の両方のメンバーを擁するバロック・アンサンブルで、創設者である指揮者のデヴィッド・ベイツはかつては歌手としてグラインドボーン・オペラで活躍していた人です。このベイツの、ほとんどカリスマ的なリーダーシップによって、この団体は瞬く間に世界中に知られることになり、このレーベルからもすでに3枚のCD(SACD)がリリースされています。
そのベイツの指揮ぶりは、とても表情豊かに楽器と、そしてもちろん歌手たちとを歌わせ、リアリティあふれる音楽を作り出すものでした。これは、同じような経歴を持つあのルネ・ヤーコブスととてもよく似ている資質ではないでしょうか。ここで演奏されている曲はすべて初めて耳にするものでしたが、そんなとても雄弁な演奏によって、たちどころに引き込まれてしまう魅力を持っていました。
そんな魅力が最高に詰まっているのが、「エフタ」です。なんでも、これは音楽史上最初の「オラトリオ」だということですが、これが作られた時点で後のオラトリオに必要とされているものをすべて備えていたというのが、すごいところではないでしょうか。というか、物語を進めていく役目を持つ「ナレーター」によるレシタティーヴォでは、多くのパートの声が交代で担当したり、時にはアンサンブルになるといったようなヴァラエティに富んだ作り方は、後の定型化されたものよりももっと自由な表現を可能にしているような気さえします。
楽器とともに作られる情景の描写も素晴らしいものがあります。父親の帰りを待つエフタの娘(かわいそうに、名前も与えられていません)が太鼓をたたいてお祝いをしているシーンの音楽などは、シンプルなベースのパターンで始まったものが次第に盛り上がるという、まさにダンス・ミュージックそのものです。そして、クライマックスはその「娘」による長大な「アリア」です。この団体はメンバーがソロも合唱も同時に担当していますが、ここでその「娘」のソロを歌っているのはソフィー・ジュンカーという人、とてもダイナミックな歌い方で、深い悲しみを歌い上げています。このソロのバックにエコーとして加わる合唱も、とても効果的です。
シャルパンティエの2つの作品も、同じような作られ方ですが、こちらはそれにいかにもフランス風の装飾が加わって、また別な魅力を振りまいています。そして、それらの曲の間には、セバスティアン・ド・ブロッサール(1655-1730)のサンフォニーやトリオ・ソナタといったインスト曲が挟まります。これらも、とても趣味のよい粋な演奏、さらにSACDならではのクリアさで、楽器のテクスチャーがくっきりと浮かび上がってくるのは、とても贅沢な思いにさせられるものです。
もちろん、このクリアさは合唱やソロでもふんだんに味わえ、至福の時間が過ぎていきます。

SACD Artwork © harmonia munde usa
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by jurassic_oyaji | 2015-02-07 22:08 | 合唱 | Comments(0)