おやぢの部屋2
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Rondo
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磯絵里子(Vn)
新垣隆(Pf)
SONY/MECO-1027(hybrid SACD)




ヴァイオリンの小曲を集めたアルバム、しかも日本人のアーティストなんて、積極的に(消極的ではなく)聴いたりすることはまずないのですが、ここでピアノを弾いているのがあの新垣隆さんで、さらに新垣さんの「作品」も聴くことが出来るというだけの理由で、買ってしまいました。一応、「あの事件」の時には、彼の音楽そのものに対しては好意的なコメントしかなかったような気がしていたので、それがどの程度のものか、全く先入観なしに聴いてみようと思ったのですよ。SACDですし。
まず、アルバムの音を聴く前に、ブックレットのライナーノーツに面白いことがかかれていることに気づきます。ヴァイオリニストの磯さんが新垣さんのことを語る部分で、彼が2009年頃に三善晃のオペラ「遠い帆」のピアノ・リダクションを行っていたことを紹介しているのです。「遠い帆」といえば、1999年に仙台市からの委嘱で初演されたオペラで、その時の合唱団には市内のアマチュアが参加していました。その時に使った楽譜は、手書きのパート譜だったそうですが、ピアノ伴奏者はスコアをそのまま見ながら音を抜き出して演奏していたのだそうです。2014年に、やはり仙台市がこのオペラを再演しますが、その時にはそんな手書きのコピーではなく、全音からちゃんとしたヴォーカル・スコアが出版されていました。これが、新垣さんの仕事だったのですね。確かに、全音のサイトにはそのようなクレジットがあります。

もうひとつ、その磯さんの文の中でのツッコミどころが、「新垣さんから頂いた曲を意識して、このアルバムの選曲を行った」というものです。ここで演奏されている新垣さんの「新作」は、確かに片方は明るく華やかですが、もう片方はちょっと暗めで内省的という、正反対のキャラクターを持っていますから、それに合わせて、他の「小曲」も、対照的な「対」として選曲したというのですね。ところが、そのあとに林田さんという「音楽評論家」が書いている「楽曲解説」によると、この新垣さんの作品は、「録音当日に出来上がった」のだというのですね。普通に読めば、どちらかの言っていることが間違っているとしか思えない状況ですが、こういうことを追求するのはあまり意味のないことなのでしょう。
その新垣さんの作品、アルバムの冒頭に収録されている「ロンド」は、とてもキャッチーなテーマが繰り返し現れる文字通りの「ロンド」で、何の屈託もない楽しい曲です。というか、いかにも興に任せて書きなぐった、というような、聴いた後には何も残らないものです。もう1曲は、最後に収められた「哀しい鳥」という曲です。こちらは、ちょっと聴くとフランスの印象派の作曲家のテイストを取り込んだもののようですが、おそらくそんなベースで即興的に演奏されたもののような気がします。ただ、その場の空気が伝わってくるような切迫感はとてもよく表現できているのではないでしょうか。それによって心が動かされる、という次元のものではありませんが。
ところが、単なる「名曲集」に過ぎないはずの本編の方で、びっくりするような体験が待っていたのは意外でした。それは、サン・サーンスの「白鳥」。もちろん原曲はチェロと2台のピアノのための作品ですが、ここではそれをヤッシャ・ハイフェッツがヴァイオリンとピアノのために編曲した版が使われています。実は、今の今までこの版を聴いたことが無かったのですが、このピアノ伴奏のパートがオリジナルとは全然違ったぶっ飛んだものだったのですよ。そのあまりの「アヴァン・ギャルド」さに、もしかしたらこれは新垣さんが手を入れたのではないか、と思ってしまったほどです(確認しましたが、ここで演奏されていたのは紛れもないハイフェッツ版でした)。
これが、このアルバムを聴いての最大の収穫だというのが、ちょっと哀しいですね。

SACD Artwork © Sony Music Direct Inc.
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by jurassic_oyaji | 2015-03-11 21:16 | ヴァイオリン | Comments(0)