おやぢの部屋2
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BACH/Goldberg Variations
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Thomas Gould/
Britten Sinfonia
HARMONIA MUNDI/HMU 807633(hybrid SACD)




バッハの大作「ゴルトベルク変奏曲」は、元々はクラヴィーア、つまり鍵盤楽器のために作られました。ですから、基本的にはその時代の「鍵盤楽器」であるチェンバロで演奏されるものなのでしょうが、一応同じ「鍵盤楽器」ということでオルガンで演奏している人もいましたね。
それを、弦楽器のアンサンブルの形で演奏しようとしたのが、ロシアのヴァイオリニスト、ドミトリー・シトコヴェツキーでした。彼はまずヴァイオリン・ヴィオラ・チェロの3つの楽器のための編曲を行い、その「三重奏」バージョンを自らの演奏で1984年に録音します。その時のヴィオラはジェラール・コセ、チェロはミッシャ・マイスキーでした。もうすぐ終わってしまいますね(それは「ウイスキー」)。
さらに、シトコヴェツキーは、もっと編成を拡大した「弦楽合奏」の形のバージョンも作り、1993年にニュー・ヨーロピアン・ストリングスとともに録音します。「三重奏」はすでにほかのアーティストも何曲か録音しているはずですが、今回のCDはもしかしたら最初の「カバー」かもしれません。
ここで演奏しているブリテン・シンフォニアのメンバーを見てみると、6.5.4.3.2という結構な大きさのアンサンブルでした。ですから、かなり厚い音を期待して聴き始めたら、最初の「アリア」はなんと、コンサートマスターであるトーマス・グールドがソロでテーマを演奏するというものでした。これが、チェンバロやピアノで演奏されるものとは全く異なる、レガートとビブラートのたっぷり加わった甘ったるいものであったことには、ちょっとした違和感を覚えてしまいました。名前を見て、あのグレン・グールドの親戚かなんかかと勝手に思っていた(もちろん、赤の他人です)ものですから、そのあまりの落差に戸惑ってしまったのですね。
ところが、次の第1変奏がトゥッティで始まったら、その、うって変ってアグレッシブな様相にちょっとしたショックを受けることになるのです。そういうことだったのですね。単に編成を大きくしたというだけではなく、そこでソロとトゥッティを上手に使い分けることによって、幅広い表現を目指すというのが、この編曲のコンセプトだったのでしょう。
例えば第5変奏などは、楽器は基本的にヴァイオリン2本とチェロしか登場しません。たまにチェロの声部にコントラバスが加わって低音を補強するというだけの小さなアンサンブルなのですが、これがトゥッティとは全く別の緊張感を生むものになっています。そんな少ない人数の場合でも、とても豊かな響きが感じられるのは、録音された場所が非常に美しい残響を持ったところだからなのでしょう。このオール・ハロウズ教会というのは、あのスティーヴン・レイトンとポリフォニーが良く録音に使っているところです。この響きは、まさにあのハイテンションの合唱を包み込んで、見事にそのパワーを伝えてくれるサウンドと同質のものでした。
第14変奏では、ソリとトゥッティが交互にめまぐるしく変わるという編曲です。チェンバロだったら別の鍵盤を使って弦の数を変えるという場面でしょうね。そんな、おそらくバッハがまるで協奏曲のようなイメージで作ったかのようなところが見事により具体的なものとなって迫ってきます。第16変奏のフランス風序曲もそんな感じ、弦楽合奏の壮大なサウンドで、楽器一つではなかなか表現できない大きな世界が眼前に広がります。
第25変奏は、短調になってしっとり聴かせるところ。グールドのソロは、その短調ならではの短3度の音程を微妙なニュアンスでまるで探るように歌わせていますから、そこからは言いようのない愁いが漂ってきます。
最後にまた「アリア」が冒頭と同じ形で現れたとき、何か現実に引き戻されたように感じてしまったのはなぜなのでしょう。それまでの数々の変奏で繰り広げられていた世界は、もしかしたら夢の中のものだったのかもしれません。

SACD Artwork © harmonia mundi usa
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by jurassic_oyaji | 2015-03-21 21:43 | オーケストラ | Comments(0)