おやぢの部屋2
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KANNO/Light, Water, Rainbow...
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小川典子(Pf)
BIS/SACD-2075(hybrid SACD)




菅野由弘さんは、1953年生まれ、東京藝術大学の修士課程を1980年に卒業されています。現在は早稲田大学の教授を務められ、「基幹理工学部表現工学科」というところで研究室を主宰されています。作曲家としては、とても幅広いジャンルでの作品を発表しています。それは「芸術音楽」にはとどまらず、映画やドラマの音楽にまで及んでいます。「Nコン」の課題曲まで作っているんですね。
このアルバムでは、小川典子さんのピアノで、その小川さんからの委嘱作品などを中心に聴くことができます。タイトルにもある「光の粒子」、「水の粒子」、「虹の粒子」という3つの作品が、その委嘱作、これらはミューザ川崎シンフォニーホールとの共同委嘱で作られたもので、2009年、2010年、2011年にそのホールで開催された小川さんのリサイタルでそれぞれ初演されています。
この「粒子三部作」では、日本の「原始的」な発音体がピアノと一緒に演奏されるという画期的な試みが行われているのだそうです。それはピアノが作り出す西洋音楽の倍音の中に、それとはまったく異なる体系の音源を加えて、全く新しい音響を作り出しているのだとか。そのために用意されたのは、「南部鈴」、「明珍火箸」、「歌舞伎オルゴール」というそれぞれ日本独自のサウンドを生み出す音源です。「南部鈴」は岩手県の名産、鋳鉄による鈴で、独特の澄み切った音を奏でます。「明珍火箸」というのも、やはり鉄でできた箸(そう言えば「火箸」の現物にはしばしの間お目にかかっていないなぁ)です。2本の箸が糸でつながっていますから、その糸をつまんで振れば箸同士がぶつかって音が出ます。そして、「歌舞伎オルゴール」という、古典芸能のアイテムにしては何ともショッキングなネーミングが印象的な「楽器」は、仏教での読経の際に使われる「キン」という丸い小さな鐘を、大きさの異なるいくつかのものを並べて固定したものです。歌舞伎ではこれで虫の鳴き声などを表現するのだそうです。
そんな、言ってみれば西洋音楽と日本の伝統工芸品のコラボレーションは、確かにサウンド的にはそれなりの効果は感じられますが、それが音楽としてどうなのか、という疑問は残ります。というのも、このあたりの彼の作風は、もはや確固としたスタイルが出来上がってしまっているために、そこにいくら「チーン」とか「カーン」という異質な音が入っても、それ自体には何の変化をもたらしてはいないように思えてしまうのですよ。その彼のスタイルというのは、ほとんどドビュッシーかと思われるようなフレーズが、とても細かい音(それが「粒子」なのでしょうか)によって紡がれるというもの。しかも、そのフレーズには見事なまでの整合性があって、きっちり先が見通せるというプリミティブなところがあるのですね。正直、この作品群からはただ時間を音符で埋めているという「現象」しか感じることはできませんでした。
この「三部作」の前後に作られた「天使のはしご」(2006年)と「月夜の虹」(2012年)という作品では、ピアノやトイ・ピアノの音をリング・モジュレーターで変調しています。これは、大昔のプログレ・ロックの常套手段でしたね。それはそれで懐かしさは感じるものの、「それで?」という感はぬぐえません。それよりも、武満徹の没後10周年のために作られた「天使のはしご」では、その武満からの引用よりは、彼がよく引用していたドビュッシーや、さらにその「元ネタ」のワーグナーまでが聴こえてくるのには、笑ってしまいました。
このアルバムの中では、最後に演奏されている、1985年に押井守の「天使のたまご」というアニメのために作られた「天使のための前奏曲」というほんの3分ほどのピアノ・ソロが、もっとも心を打たれるものでした。この、シンプルさの中に秘められた油断できないモードに見られるような閃きを、この作曲家はいつの間にかなくしてしまっていたのではないでしょうか。

SACD Artwork © BIS Records AB
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by jurassic_oyaji | 2015-03-29 20:12 | 現代音楽 | Comments(0)