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ポホヨラの調べ/指揮者がいざなう北欧音楽の森
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新田ユリ著
五月書房刊
ISBN978-4-7727-0513-4




指揮者の新田ユリさんと言えば日本シベリウス協会の会長を務められるなど、シベリウスを中心にした北欧の作曲家の演奏に関してはまさにオーソリティとして自他ともに認められている方です。そんな新田さんは、文才も豊か、日々の指揮活動などを事細かに語ったFacebookやブログの文章は、常に関係者への配慮が込められた適切さの中に、ご自身の思いを端的に伝えているという驚くべきものです。そんなスキルの真髄を込めて書き上げられた本が、面白くないわけがありません。
表紙の一番上に「シベリウス&ニルセン生誕150年」という文字があります。もちろん、この本が今年のそのような記念年をさらに盛り上げるために企画されたものであることはまちがいありません。しかし、おそらくそれは単なるきっかけ、新田さんの脳に蓄積された豊かな知識と経験値は、ずっとこのような発露の機会をうかがっていたのでしょう。それが地表に現れて輝く光のもとに姿を見せたものが、この本なのではないでしょうか。
全体のページの半分を占めているのが、シベリウスの全交響曲と主な管弦楽曲(+ヴァイオリン協奏曲)についての記述です。それらは、その辺のCDのブックレットやらネットのブログやタイムラインで見つかる通り一遍の「楽曲解説」のようなものとはまるで次元を異にするものです。新田さんの場合、まずは客観的な事実、創作に至るまでの状況など、基本的なデータはしっかり述べられているのは基本ですが、その部分ですでに多くの資料を立体的に読み解いた末にたどり着いたとても見晴らしの良い情景が広がっています。そしてそのあとに続くのが、演奏家という視点から曲の真髄に分け入っていくという作業です。それは、実際にスコアの隅々までを読み込んで、作曲家の思いを完璧に受け取ったものにしか書くことの許されないほどの精緻かつ深遠なものです。ですから、もしかしたらこの部分を真の意味で理解するためには、ある程度の音楽的な知識と経験が必要とされるのかもしれません。しかし、それは逆に未熟な読者にとってはさらなる知的探求を促すものに違いありません。もちろん、それなりの深みに達した聴き手にとっては、これ以上のものはないでしょう。まして、実際にオーケストラのメンバーとして新田さんの指揮に接していたりすれば(新田さんは多くのアマチュアの団体との共演を行っていますから、そんな機会がないとは限りません)、これほど興味深く読める部分もないはずです。
楽譜に関する最新の情報が盛り込まれているのも、新田さんならではのことです。現在、シベリウスの初期稿や編曲なども含めてすべての作品を刊行するという全集の編纂が進行中で、現時点ではその半分近くのものが出版されていますが、新田さんはそれらの校訂を担当している人物とも直接コンタクトできるという立場にありますから、その情報の正確さに関しては誰よりも精通しています。ごく最近、昨年の12月に刊行されたばかりのヴァイオリン協奏曲の全集版についても、ここで初めて楽譜として目に触れることが出来るようになった初期稿への熱い思いをつぶさにうかがうことが出来ます。なんでも、6月には実際にこの初期稿を指揮される機会があるのだそうですね。新田さんの「経験値」はさらに高まります。
さらに、シベリウスやニルセン以外の北欧諸国(フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、アイスランド)の作曲家200人(!)を、代表的なCDとともに紹介しているという「編集部」の偏執狂ぶりにも驚かされます。それはただの「付録」ではなく、新田さんの本文とはしっかり有機的に関連付けられているという優れものです。
217ページにリハーサルで指揮をなさっている写真が載っていますが、そのオーケストラはなんと仙台ニューフィル。なんかうれしくなりました。

Book Artwork © Gogatsu-Shobo
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by jurassic_oyaji | 2015-04-17 20:25 | 書籍 | Comments(0)