おやぢの部屋2
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Bach to Moog
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Craig Leon(Cond, Synth)
Jennifer Pike(Vn)
Sinfonietta Cracovia
SONY/88875052612




今年、2015年は、ロバート・モーグが「モジュラー・シンセサイザー」をこの世に誕生させてからちょうど50年という記念すべき年なのだそうです。つまり、音源となる発振機(VCO/Voltage Controlled Oscillator)、音色を変えるフィルター(VCF/Voltage Controlled Filter)、ダイナミックスを決める増幅機(VCA/Voltage Controlled Amplifier)、そして音の立ち上がりや減衰をコントロールする装置(Envelope Generator)といった個々の「モジュール」をパッチコードで接続して一つの音を作り出すという、最もベーシックなシンセサイザーが発明されたのが、1965年だったのです。もちろん、それぞれの設定は「つまみを回す」というアナログなものでした。

これを使って世界で初めてシンセサイザーでバッハの作品を録音したのが、ワルター・カーロスでしたね。「Switched-On Bach」という、1968年に発表されたアルバムは、世界中でヒットしました。「彼」が使った「楽器」には、そんなモジュールが100個近く収められています。このアルバムを聴いて、自分でもシンセサイザーの音楽を作ってみようとした日本人が、富田勲です。彼の「Snowflakes are dancing」という、1974年のアルバムも、世界中で大ヒットとなり、彼は「世界のトミタ」と呼ばれるようになりました。
彼らはスタジオでこの楽器の音源をMTRにオーバーダビングして音楽を作っていたのですが、キース・エマーソンのようなキーボード奏者は、これをライブで使ったりもしました。モーグのシンセサイザーには、こんな仰々しいものではなく、ライブ仕様のコンパクトなもの(たとえば「ミニ・モーグ」)もあったのですが、あえてこれを使ったのには、多分にビジュアルなインパクトをねらうという意味があったのでしょう。日本人のユニットYMOでも、これをステージに乗せていましたね(専用のマニピュレーターが操作していました)。
そんな、一時代を作った「楽器」は、その後のデジタル・シンセサイザーの台頭で音楽シーンからは忘れられていったかに見えましたが、近年はアナログならではの腰の強い音に魅力を感じる人たちによって、改めてその存在が見直されています。ビンテージを修理したり、コピーして新たに作るといった動きの中で、ついに亡きモーグのメーカーからオリジナルと全く同じ設計で、最新の「復刻品」が「リイシュー」されるようになりました。このCDのジャケットに写っているのが、「System 55」という1973年に発売になったハイエンド・モデルを忠実に再現した商品です。富田勲がこれと同程度の楽器を買った時には、確か当時でも千万円単位の価格だったものが、今では「たった」35,000ドルで買うことができます
その「System 55」を使って、バッハを録音したのはゴールウェイがDGに移籍した時に最初に作ったアルバムをプロデュースしたクレイグ・レオンでした。ただ、彼の場合はシンセサイザーだけではなく、「生の」ヴァイオリンと弦楽オーケストラも加えています。
冒頭を飾るのが、ヴァイオリン・パルティータ第3番の「プレリュード」(ホ長調)だというのは、もちろん「Switched-On Bach」を意識してのことでしょう。ただ、「本家」ではその「パロディ」である、カンタータ29番のシンフォニア(ニ長調)の方が使われています。キーこそ違いますが、そこから聴こえてきた「モーグ」の音は、まさに50年近く前にワルター・カーロスが作り上げたものと非常によく似たものでした。しかし、そこに「生楽器」が入ってくると、それぞれのテンポ感が微妙にずれていることに気づきます。というか、はっきり言って「合ってない」のですよ。それは、途中でもう聴くことをやめてしまいたくなるほどの「いい加減」な仕上がりでした。いったいレオンは何を目指してこんなアルバムを作ったのかが、まるで見えてきません。これは、モーグに対してもバッハに対しても、そして「ウェンディ」・カーロスに対してもたいしてリスペクトを持っていないアホなプロデューサーがでっち上げた、とんでもない駄作です。

CD Artwork © Sony Music Entertainment
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by jurassic_oyaji | 2015-05-09 21:02 | ポップス | Comments(0)