おやぢの部屋2
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TCHAIKOVSKY/Piano Concerto No.1, PROKOFIEV/Piano Concerto No.2
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Kirill Gerstein(Pf)
James Gaffigan/
Deutsches Symphonie-Orchester Berlin
MYRIOS/MYR016(hybrid SACD)




以前、その音の良さに衝撃を受けたMYRIOSレーベルのゲルシュタインのアルバムの続編は、チャイコフスキーとプロコフィエフのピアノ協奏曲でした。今までこのレーベルからリリースされたアルバムはほとんどソロか室内楽、オーケストラが加わったとしても小編成のものでしたから、フル編成の大オーケストラの録音は、これが初めてのものとなります。シュテファン・コーエンがオーケストラを録るとどうなるのか、聴きものです。
今まではオリジナルはDSDで録音されたという表記があったのに、今回は「24/192」というスペックになっていました。やはり、オーケストラでは編集が必要なので、PCMで録音を行ったのでしょうか。
これは、さっきのソロ・アルバムと同じ、ベルリンのスタジオで録音されています。聴こえてきた音は、ソロの時と同じようなとても緻密なものでした。ただ、相対的にピアノの音像は小さくまとまって、全体の中の一つの楽器、という扱いです。オーケストラのソロ楽器も、それほど浮き上がって聴こえるようなことはなく、全体としてまとめられた音作りのようでした。
このアルバムの「目玉」は、チャイコフスキーで新しい楽譜が使われている、ということでしょう。その件については、ゲルシュタイン自身が詳細にライナーノーツで述べてくれています。それによると、チャイコフスキーがこの作品を完成させたのは1875年ですが(第1稿)、何度か演奏する中で音楽の形は全く変えずにピアノ・パートにだけ少し手を加えます。そして、この改訂が反映されたものが、1879年にユルゲンソンから出版された「第2稿」です。チャイコフスキー自身が関わった楽譜は、この2つの稿のみなのです。しかし、彼の死後、1894年以降に出版されたとされる「第3稿」には、かなり大きな改訂が加えられています。聴いてすぐ分かるのが冒頭のピアノソロが出てくるところ。

↑第2稿


↑第3稿


それまでの稿では2拍目と3拍目が「アルペジオ」だったものが、「第3稿」では「アコード」になっています。しかも、1拍目と3拍目はそれぞれ1オクターブ上下に移動しています。もう1ヵ所、第3楽章の108小節のあとの12小節がカットされています。ゲルシュタインは、このような「改竄」を行ったのは、アレクサンドル・ジローティだろうと言っています。ジローティはピアノ協奏曲第2番でも同じようなことをやっていましたね。しかし、この、必ずしもチャイコフスキーの意志が反映されたとは言えない「第3稿」は、「決定稿」として世界中で使われるようになってしまいました。
実は、今年2015年は、チャイコフスキーの生誕175周年であると同時にこのピアノ協奏曲の初演140周年でもあります。それに向けて、ロシアではチャイコフスキーの原典版の刊行が進められていますが、そこではチャイコフスキー自身が演奏で使い、多くの書き込みをした1879年版の出版譜が重要な資料として採用されています。この録音時にはまだそれは出版されてはいませんでしたが、それを特別に提供してもらって「世界で初めて」音にしたのが、このSACDなのです。
ただ、ずっと気になっていた第2楽章のフルート・ソロは、現行版のままでしたね。自筆稿ではしっかり訂正されているというのに。

このレーベルを販売しているのはナクソス・ジャパン、これには「帯」は付いていませんが、それに相当するものを公式サイトで見ることが出来ます。そこには「チャイコフスキーも1879年と1888年の2回に渡ってこの作品を改訂しています。現在広く演奏されているのは、実は1888年に改訂された最終稿であり、実はチャイコフスキーの最初の構想とは違うものなのです。」という「解説」が載っています。これは、ゲルシュタインのライナーとは全然事実関係が違っていますね。自社製品の最大の目玉も分からない人に解説を書かせるなんて、この会社は大切なことを忘れています。
それにしても、この文章のひどいこと。

SACD Artwork © Myrios Classics & Deutschlandradio Kultur
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by jurassic_oyaji | 2015-05-11 20:59 | ピアノ | Comments(0)