おやぢの部屋2
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BACH/Markus-Passion(1744)
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Gudrun Sidonie Otto(Sop), Terry Wey(CT)
Daniel Johannsen(Ten), Stephan MacLeod(Bas)
Hanno Müller-Brachmann(Bas)
Markus Teutschbein/
Knabenkantorei Basel, Capriccio Barockorchester
RONDEAU/ROP6090-91




このジャケットには「世界初録音」の文字が躍っています。バッハの「マルコ受難曲」には、今までにいくつもの録音があったはずですから、そんなはずはないと思いつつさらにジャケットをよく見ると、そこには「BWV247(1744)」の文字が。それなら納得です。実は今まで録音されていたのはすべて「1731年稿」による演奏だったのです。この受難曲が初演されたのはその年の受難節だったのですが、実はその後も何度も演奏されていて、そのうちの、1744年にライプツィヒの聖トマス教会で演奏された時の「テキストブック」というのがごく最近、2009年にサンクト・ペテルブルクのロシア国立図書館で発見されました。この中には、1731年稿にはない、新たな2曲のアリア(もちろん歌詞だけ)が含まれていたのです。確かに、そうなると1731年稿とは「別の作品」ということになりますからね。
つまり、バッハは「マタイ受難曲」や「ヨハネ受難曲」のように、「マルコ」でも演奏のたびに改訂を行っていたことになります。ですから、おそらくいずれはBWVもこれに従って改訂されることでしょうね。マルコの場合はBWV247ですから、この1744年稿はBWV247bぐらいになるのでしょうか。もちろん、このCDではまだ「BWV247」ですが、いずれはしかるべき番号で表記しないと、この前の「マタイ」の時のように物笑いの種になってしまいます。
とは言っても、そもそも「マルコ」では残っているのはテキストだけで楽譜は現存していないのですから、それを色んな人が「修復」して発表すれば、それがその都度「世界初録音」になるのでしょうから、あまり意味がないような気がしますがね。
そう、今回も、「1744年稿」という前に、新たな修復が施された楽譜が登場しているのですよ。その作業を行った人はアレクサンダー・グリヒトリクという指揮者/チェンバロ奏者で、このCDでもチェンバロを演奏しています。それにしても、このRONDEAUレーベルではほんの1年前にサイモン・ヘイズによる修復稿のCDを出したばかりだというのに、またもやこんな珍しいものをリリースするのですから、よっぽどのマニアが揃っているのでしょう。
グリヒトリクの仕事は、まず、ヘイズ版と同様にこの受難曲が1727年に作られた葬送カンタータBWV198の「パロディ」であるという情報を信じて、カンタータの中の3つのアリアと2つの合唱を受難曲の中で使い回すという手法は採用しています。ただ、それ以外のアリアは全く別のものになっていますし、もちろん、新しく「発見」された2つのアリアは、グリヒトリク独自の修復の成果です。
さらに大きく異なっているのは、レシタティーヴォの部分です。ヘイズ版では、そこにラインハルト・カイザーの「マルコ受難曲」のパーツを部分的に当てはめていたのですが、グリヒトリクは徹底的に「バッハ風」に仕上げるために、「マタイ」や「ヨハネ」のパーツを、ほとんどそのままの形で流用しています。エヴァンゲリストやイエスのレシタティーヴォは、まさに「どこかで聴いたことのある」テイスト、イエスの「Das ist mein Blute des neuen Testaments」という歌詞の部分などは「マタイ」そのものです。さらに、群衆の合唱もお馴染みのフレーズがあちこちから聴こえてきますよ。
合唱はバーゼル少年合唱団という団体です。初めて聴きましたが、かなりの大人数で少年合唱特有の「はかなさ」のようのものは一切感じさせない力強さが感じられる素晴らしい合唱団です。それどころか、どこか暗めの音色で、受難曲ならでは深刻さを存分に伝わってきます。
「修復」とは言っても、実態は完全な「でっちあげ」、というか、とてもよくできた「贋作」なのですが、ここまで「バッハ風」に決められてしまうと、何か言いようのない感動に襲われてしまいます。騙されたふりをして、バッハの3つ目の受難曲の「初録音」に浸ってみるのも、一興です。カレーと一緒にどうぞ(それは「ラッキョウ」)。

CD Artwork © Rondeau Production
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by jurassic_oyaji | 2015-05-13 20:46 | 合唱 | Comments(0)