おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
ZEMLINSKY/Die Seejungfrau
c0039487_21432648.jpg



John Storgårds/
Helsinki Philharmonic Orchestra
ONDINE/ODE 1237-5(hybrid SACD)




ツェムリンスキーの「人魚姫」と「シンフォニエッタ」の「世界初録音」となるSACDです。とは言っても、どちらもすでに何枚ものCDが出ている作品ではないか、とおっしゃるかもしれませんね。これは、それぞれに今までとは一味違った楽譜による演奏の「初録音」ということなのです。「人魚姫」の場合は今までの楽譜では削除されていた部分が復元されていますし、「シンフォニエッタ」では室内オーケストラのために編曲された楽譜が使われています。
このサイトではあまりなじみのない作曲家、アレクサンダー・ツェムリンスキーは1871年にオーストリアで生まれました。彼は、音楽史の中では「シェーンベルクの師」として知られています。とは言っても、シェーンベルクの作曲技法はほとんど独学で確立されたもので、ツェムリンスキーは単に「対位法」を教えただけですし、年齢も3歳上なだけですから、「友人」といった感じだったのでしょう。実際、彼の作風はあくまで後期ロマン派の延長線上にあるもので、「無調」の音楽を作ることはありませんでした。
彼の教え子として有名なのが、エーリヒ・コルンゴルトです。後にハリウッドの映画音楽作曲家として注目されるコルンゴルトの華麗なオーケストレーションは、まさにツェムリンスキー譲りのものでしょう。そしてもう一人、やはり弟子として才能を開花させたのがアルマ・シントラーです。後にグスタフ・マーラーと結婚、その前後に数多くの芸術家と危険な男女関係にあった魔性の女ですが、ツェムリンスキーも彼女に対しては恋愛感情を持っていました。しかし、それを彼女にコクっても、彼女は一言「あなたは醜い」と言ってマーラーと結婚してしまったのだそうです。かわいそうですね。
それは1902年のこと、そんな辛い思いからまだ癒えてなかった1903年に作られ、1905年に初演されたのが、「人魚姫」です。一応「交響詩」と呼ばれることの多い作品ですが、正式なタイトルは「アンデルセンの童話による、大オーケストラのための3つの楽章の『幻想曲』」というのだそうです。ただ、作曲家はこの作品の出来に満足しておらず出版はされませんでした。その後、自筆稿は散逸して行方が分からなくなってしまいますが、1980年になって発見されたものが1984年に甦演され、それ以来CDなども作られるようになったという、ちょっと遅れて出てきた名曲です。でも、そもそもそんなことはツェムリンスキーと疎遠な人にとってはどうでもいいことですが。
この作品は初演のリハーサルの時に第1楽章と第2楽章にかなり大胆なカットが施されていました。現在演奏されているのはそのカット後の楽譜なのですが、ごく最近、2013年に、アントニー・ボーモントというイギリスの指揮者/音楽学者が、そのカットされたページを発見して、それを盛り込んだ新しいクリティカル・エディションを出版しました。その現物はこちらのウニヴェルザールのサイトで全部見ることが出来ます。太っ腹ですね。ここでは、59ページからはカットされている現行の第2楽章、そして120ページからは復元された部分も入った新しい第2楽章が印刷されています。その新しい楽譜を使って初めて録音されたのが、このSACDです。第2楽章の06:41から11:29までの間が、その新たに挿入された部分、海の魔女が現れるちょっとおどろおどろしい音楽が聴こえてくるはずです。
第1楽章のカットは、本体には盛り込まれず、前書きにスケッチだけが掲載されています。これも、いつか音になったものを聴いてみたいですね。
はっきりわかるライトモティーフと、とても写実的なオーケストレーションで、まさに「人魚姫」の物語が眼前に迫ってくるようなとても聴きごたえのある作品です。最後の「救済」が描かれる部分は、涙なくしては聴けないでしょう。そこに、アルマとの破局がモチヴェーションになっているのだと感じるのは、きっと正しいことです。

SACD Artwork © Ondine Oy
[PR]
by jurassic_oyaji | 2015-06-28 21:45 | オーケストラ | Comments(0)