おやぢの部屋2
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Choral Works of American Composers
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Stephen Layton/
Polyphony
HYPERION/CDA67929




前回に続いてやはりアルバムタイトルがあえて付けられていないCDですが、実体は「アメリカの作曲家の合唱作品集」みたいなものです。でも、このレーベルの代理店、「東京エムプラス」は、そんなありきたりのものでは物足りなかったのでしょう、「アメリカン・ポリフォニー」というかっこいいタイトルを「帯」に印刷してくれました。
まあ、ここで演奏している合唱団の名前にひっかけただけの安直なタイトルなのかもしれませんが、普通に考えるとこれは「アメリカ人が作ったポリフォニー」という風にとらえられてしまいます。誰でも知っていることですが、「ポリフォニー」というのは、多くの声部がそれぞれに独立した時間軸を持って進行する音楽の形態のことです。ルネサンスのあたりに隆盛を極め、バッハの時代ごろまでもそのような音楽は作られていましたが、その先の時代ではもっぱらすべての声部が同じ時間軸で進行する「ホモフォニー」という形態の音楽が主流になっていきます。19世紀あたりから、ヨーロッパ音楽の模倣という形で始まったアメリカのクラシック音楽も、ですから基本的に「ホモフォニー」的なものであったはずです。そこで「アメリカン・ポリフォニー」などという言い方をされてしまうと、そんなアメリカ音楽の中にも「ポリフォニー」的な作品があって、それらを集めたものがこのアルバムなのでは、と思ってしまいませんか?
もちろん、ここで聴くことのできるア・カペラの合唱作品は、特段「ポリフォニー」を感じさせられるものではありませんでした。単に「東京エムプラス」の担当者が音楽のことをよく知っていなかったか、商品を実際に聴いていなかったというだけの話だったのです(東京モノシラズ)。CDを購入した聴き手が最初に指針とする「帯原稿」でこんないい加減なことをやっているのは、非常に困ったものです。
スティーヴン・レイトンが1986年に作った「ポリフォニー」は、もちろんパレストリーナなどのポリフォニー音楽だってレパートリーにしていたのでしょうが、最近のアルバムでは積極的に、合唱関係者以外にはそれほど知られてはいない作曲家の作品を取り上げています。今回は20世紀の前半に活躍した4人のアメリカ人作曲家、ランドール・トンプソン、アーロン・コープランド、サミュエル・バーバー、そしてレナード・バーンスタインの作品が集められています。いずれも、この時代のヨーロッパに吹き荒れたアヴァン・ギャルドの波からは遠く離れた穏健な作風を持った作曲家ばかりです。
そんな中で、最も穏健なのが、今回初めて耳にしたトンプソンです。1940年に、当時のボストン交響楽団の音楽監督だったクーセヴィツキーからの、「何か景気のいい合唱によるファンファーレ」ということで委嘱を受けて作った「Alleluia」という作品がアルバムの最初を飾っていますが、それがこの合唱団らしからぬ、全く力の抜けた虚しい響きで始まったのには、ちょっと驚いてしまいました。結局、この合唱団の「売り」であるハイテンションの歌い方は、ここでは全く聴くことはできなかったのです。タイトルの言葉だけを延々と続けるその音楽が、この合唱団をしてもほとんど「沈黙」せざるを得ないものに仕上がったのは、作曲家がクーセヴィツキーの望みに背いて、その時に知ったパリがナチス・ドイツに占領されたニュースによって「ゆっくりとした、悲しい平和」を目指した音楽を作る衝動に駆られたからなのです。これは名曲です。
最後にもう1曲、同じ作曲家の「Fare Well」という作品が、同じような静謐さを伝えてくれていますが、その他の作曲家の曲でのいつもながらの元気のよすぎる歌い方には、ちょっと閉口します。有名なバーバーの「Agnus Dei」は、もっと内面的に表現されるべき作品でしょう。そのせいでしょうか、バーンスタインの「Missa brevis」は、ラテン打楽器を多用したただのランチキ騒ぎにしか聴こえません。

CD Artwork © Hyperion Records Limited
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by jurassic_oyaji | 2015-07-19 23:31 | 合唱 | Comments(2)
Commented by Hippo at 2015-07-21 08:01 x
こんにちは。いつも楽しく拝見させていただいてます。

「アメリカン・ポリフォニー」誤解を招きかねないタイトルですね。ただ、それを「東京エムプラス」の担当者のせいにするのは少しかわいそうかなと思います。

というのは、HYPERIONレコードが「American Polyphony」というタイトルをつけてこのアルバムをリリースしているからです。BBC Music Magazineでもこのタイトルを使ってます。

「東京エムプラス」が独自に適切な名称を考えて付けてくれれば、それは素晴らしいことなのですけど、ちょっと難しいかも。レーベルの姿勢の方が問題かもしれません。
Commented by jurassic_oyaji at 2015-07-21 11:26
Hippoさま。
いつも鋭いご指摘ありがとうございます。
確かに、websiteではそのようなタイトルを付けていますね。
しかし、CD本体では、ジャケット、ブックレット、インレイを含めて、そのような表記は見つからないので、少なくともこれは製作者の意図を汲んだ表記とは思えませんね。
Hyoerionの公報に踊らされたエムプラスの失態ということでしょう。