おやぢの部屋2
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PÄRT/Tintinnabuli
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Peter Phillips/
The Thallis Scholars
GIMELL/CDGIM 049




アルヴォ・ペルトほど、分かりやすい作曲家人生を送っている人も珍しいのではないでしょうか。1935年にエストニアに生まれ、型通りの「現代作曲家」の道を歩むかに見えたペルトは、1968年をもってそれまでのすべての作品を封印して表立った作曲活動をスッパリやめてしまいます。当時の西洋音楽のあらゆる技法を試してきたそれまでの彼の路線が完全に行き詰っていたのは、その年に作られた「クレド」という、大オーケストラに合唱とピアノ・ソロが入った作品を聴けばよくわかります。確かにそれは、まさに行き場を失ったどうしようもない「駄作」だったのです。
それから8年間に及ぶ「ひきこもり」生活を送った後に再び音楽シーンに現れた時には、彼は全く新しい作曲技法を身に付けていました。彼が1976年に発表したピアノ曲「für Alina」は、以前とは全く異なる、彼自身が中世、ルネサンスの音楽に触発されて「発明」した新たな様式に基づくものだったのです。それが、このCDのタイトルとして大々的に示されている「ティンティナブリ」という作曲様式です。それは、三和音とシンプルなスケールを組み合わせただけのものですが、そのサウンドはまるで鐘の音のように聴こえることから、ラテン語で「鐘」を表す「ティンティナブリ」と名付けられていました。それ以後、ペルトはすべての作品をこの「ティンティナブリ様式」で作曲、まさにヒーリング系ミニマリストとして一世を風靡することになるのです。
このジャケットは、すべて大文字でその単語がデザインされているというユニークなものです。ただ、「TINTIN」と「NABULI」の間で改行してしまったために、それをローマ字読みで認識できる日本のファンにとっては、格好のツッコミの対象になってしまいました。参考のために付け加えれば、「なぶる」という動詞には、「もてあそぶようにいじる」という意味があります。
タリス・スコラーズと言えば、ハイボールではなく(それは「トリス」)なんといってもルネサンスの合唱曲というイメージがあります。それがペルトの作品を取り上げたというところに、ピーター・フィリップスの思いを感じることができるでしょう。今まではあくまで比喩として「ルネサンスを現代に甦らせた作曲家」と言われてきたペルトに対して、彼はリアルにペルトを「ルネサンス」の作曲家と同列にとらえ、その時代の音楽へのスタンスと同じアプローチを試みたのです。そして、それは見事にペルトの本質を言い当てたものとなりました。
例えば、同じイギリスの合唱団で、前回取り上げた「ポリフォニー」も、最近ペルトを演奏したアルバムをリリースしていましたが、その中で今回のタリス・スコラーズのアルバムの中でも演奏されている「The Woman with the Alabaster Box」と「Tribute to Caesar」の2曲をそれぞれ比較してみると、そのアプローチがいかに異なっているかがとてもはっきりしてきます。いずれも「マタイ福音書」を英訳したテキストが用いられていて、かなり物語性の高い部分、例えば「The Woman~」などはロイド・ウェッバーのミュージカルでも印象的なシーンでした。それが、「ポリフォニー」の演奏では、そんなシーンが眼前に広がってくるような生々しさが感じられるのに、「タリス」ではもっとクールな、言葉にはそれほど意味を感じられず、音楽そのものしか聴こえてこないような演奏なのです。言葉に頼らなくても、「ティンティナブリ」の特徴である、三和音の中でスケールを歌っている時に必然的に生じるテンション・コードの緊張感だけで、見事にテキストの「精神」を表現しているのですね。
メンバーの名前を見てみると、ソプラノのパートに2人、両方の団体に参加している人が見つかりました。しかし、他のパートではそのような「掛け持ち」は全くありません。ピーター・フィリップスも、スティーヴン・レイトンも、まさに手塩にかけて自分の信念を実現させる合唱団を作り上げていたのですね。

CD Artwork © Gimell Records
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by jurassic_oyaji | 2015-07-21 20:18 | 合唱 | Comments(0)