おやぢの部屋2
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メンデルスゾーンのプログラム・ノーツ
 今年の夏は最初から暑さをとばしてますから、大変ですね。でも、今年から私の伴侶となった「ウィルキンソン・タンサン・クリアジンジャ」のお蔭で、いとも爽やかに生きていられます。いくら飲んでもあとに残らないのがいいですね。
 この間のコンサートは月曜日に本番だったので、なんだか今週は早く過ぎてしまったような気がします。あの時N岡さんに撮ってもらった写真を見直していたら、すごい絶妙なシャッターチャンスを捕えたのが見つかりました。
 かわいいお嬢さんが、突然の知り合いに出会ってびっくりしているという瞬間ですね。
 彼女が手に持っているのが、当日のプログラムです。今回も私が曲目に関する原稿を頼まれたので、公開させてください。
演奏曲に寄せて
 本日の演奏会では、フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディの作品を3曲演奏します。交響曲が2曲と、ヴァイオリン協奏曲が1曲です。
 メンデルスゾーンといえば、おそらく結婚式の代名詞として、実際の結婚式だけではなく、テレビドラマなどでもまさに結婚式のシーンに広く使われている「結婚行進曲」の作曲家として有名なはずです。しかし、彼の作品全体が正当に評価され、今まで埋もれていた作品までが演奏されるようになったのは、ごく最近のことなのです。
たとえば、彼の「交響曲」というジャンルの作品についても、かなりの混乱があったようです。普通にCDなどで「メンデルスゾーンの交響曲全集」を買ってくると、そこには5曲の交響曲が入っていたはずです。確かに、いわゆる「交響曲」と呼ぶにふさわしい管楽器も入ったフル編成の作品はそのぐらいになるのかもしれませんが、そういう編成の「交響曲」を作る前に、彼は13曲ほど「シンフォニア(=交響曲)」というタイトルの弦楽器だけによる作品を作っているのです。
ユダヤ人の銀行家というお金持ちの家に生まれたメンデルスゾーンは、小さいころから両親が雇った家庭教師のもとでしっかりとした教育を受けますが、とりわけ音楽の才能を認められて、まずは母親から、さらには高名な音楽家から指導を受けることになります。「シンフォニア第1番」を作ったのは1821年、彼が12歳の時でした。それから3年にわたって、家庭内で行われるコンサートのために「シンフォニア」を作り続けます。そして、13番目の「シンフォニア」(これは楽章が1つしかない習作のようなものだったので、彼は番号を付けていません)を作った3か月後に、「シンフォニア第13番」というタイトルで、フル編成のオーケストラのための「交響曲」を作ります。出版された際にこれが「交響曲第1番」という名前で発表されたため、それ以後の「交響曲」も、出版された順に5番まで番号が付けられ、普通に「交響曲」という時にはその5つの作品を指すことになりました。それに対して、それまでの12曲(あるいは13曲)のシンフォニアは、「弦楽のための交響曲」と呼ばれるようになっています。
 ただ、その5曲の交響曲でも、その番号は単に出版順に付けられただけのものですから、「1番」以外は作曲年代とは全く無縁の番号になってしまっています。きちんと作曲順に並べ直すと、「1番」、「5番(宗教改革)」、「4番(イタリア)」、「2番(賛歌)」、「3番(スコットランド)」となるのですからね。
 そんな不都合を解消しようと、メンデルスゾーンの生誕200年の記念の年である2009年に刊行された全作品目録(MWV)では、「交響曲」として先ほどの「弦楽のための交響曲」も含めて、全部で19の作品(断片なども含む)がほぼ作曲順にカウントされています。もし将来「交響曲」の番号が、この作品目録に従って作曲年代順に付けられる日が来た時には、本日演奏される2つの交響曲のうちの「1番」は「13番」、もう一つの「4番(イタリア)」は「16番」と呼ばれるようになっていることでしょう。

交響曲第1番ハ短調(MWV N 13)
 1824年に作られたこの交響曲は、メンデルスゾーンにとってはそれまでに作っていた「シンフォニア」とは一線を画した、新しいジャンルへの挑戦という意味を持っていたのではないでしょうか。この曲からは、そんな15歳の若者の少し背伸びをしてでも先人たちの作り上げた偉大な「交響曲」に迫るものを作りたいという気概が存分に感じられます。ここからは、彼がモデルにしたであろうベートーヴェンやウェーバー、さらにはモーツァルトなどの作品に寄せる思いが痛いほど感じられます。そうして出来上がったものは、おそらくメンデルスゾーンは聴くことのなかったシューベルトの作品ととてもよく似たテイストを持っていました。
 第1楽章の短調によるメインテーマは、例えばモーツァルトのト短調交響曲(第40番)を思わせるような深刻なものです。このテーマ、この後の「ヴァイオリン協奏曲」の第1楽章で、最初のヴァイオリンのソロが終わった後にオーケストラだけで演奏される部分に現れる堂々としたテーマとよく似ていますから、注意して聴いてみてください。それとは対照的に、長調に変わってヴァイオリン→オーボエ→フルートと受け継がれるサブテーマは、何と屈託のない美しさを持っていることでしょう。
 第2楽章では、まさにシューベルトのような歌心に満ちたテーマが、様々な楽器によって朗々と奏でられます。個人的には、このテーマの2番目の音が減和音で彩られているところにノスタルジーを感じたりします。
 第3楽章のメヌエットは、まさにモーツァルトのト短調交響曲のテイストをそのまま借りてきた趣です。そしてそれは最後の楽章にも引き継がれています。さらに、後半に出てくる弦楽器だけによるポリフォニックなやり取りは、同じモーツァルトのハ長調交響曲(ジュピター)をも彷彿とさせるものではないでしょうか。

ヴァイオリン協奏曲ホ短調(MWV O 14)
 長い準備期間を経て、1844年という、メンデルスゾーンの早すぎる晩年に完成した、数あるヴァイオリン協奏曲の中でも間違いなく上位にランキングされる超名曲です。実は、この作品は彼の2番目のヴァイオリン協奏曲です。「第1番」のニ短調の協奏曲は1822年に作られていますが、当時の作曲家が作った協奏曲を巧みに真似たような「習作」で、オリジナリティや存在感は、このホ短調協奏曲には及ぶべくもありません。
 第1楽章は、たった2小節のオーケストラの序奏のあとに、いきなりヴァイオリン独奏がメインテーマを奏するという、まさに「直球勝負」のオープニングです。しかも、そのテーマが短調ならではの心の琴線に触れる魅惑的なメロディ(まるで「演歌」)なのですから、たまりません。今までどれほどの人がこのテーマに酔いしれ、この曲の虜になってしまったことでしょう。
 そんな、聴く人を飽きさせない工夫が、第2楽章のつなぎ目に設けられています。普通はここで一旦演奏が止まりますから、客席は少しざわついてそこで緊張感が途切れてしまうものですが、そこに「まだ終わってないぞ」と言わんばかりのファゴットとフルートのロングトーンが入れば、お客さんは耳をそばだてないわけにはいかなくなってしまいます。そして、それに導き出されて、波に揺られるようなリズムに乗って現れるのが、期待通りの甘美なメロディです。
 さらに、この楽章が終わるやいなや、間髪を入れずに現れるヴァイオリンのレシタティーヴォによって準備される最後の楽章では、浮き立つような軽快なソロが、木管楽器に絡み付かれて登場します。それはまさにジェットコースター、華やかなソロの技巧に聴きほれているうちに、曲は終わりを迎えます。

交響曲第4番イ長調(MWV N 16)
 1830年にイタリアを訪れた時から構想は始まっていた交響曲が、1833年に完成します。それは、間違いなくメンデルスゾーンでなければ作ることのできなかった機知にあふれた作品です。第1楽章のオープニング、弦楽器の明るい響きのピツィカートにはじき出されるように聴こえてくる管楽器のパルスは、まるでファンファーレを思わせるものです。それに乗って登場するヴァイオリンのテーマの、なんと軽快なことでしょう。しかし、この楽章の後半に現れる、装飾音符を伴った短調のテーマは、ポリフォニックな処理も相まってさらに深みのある側面を演出しているようです。
 第2楽章では、最初は重々しい低音の歩みに乗って、やはりちょっと深刻ぶったコラール風の旋律が歌われます。これはまさしく、メンデルスゾーンが愛してやまなかったバッハの世界です。しかし、しばらくして突然現れる、楽園を思わせるような光り輝く世界は、まるで夢の中のよう。最後にはまたコラールの断片が現れて、そのはかない夢は終わります。
 第3楽章は安らぎに満ちています。中間部で出てくるホルンのコラール、それにまとわり付くヴァイオリンとフルートのオブリガートは、深く心に染み入るものです。
 そして第4楽章では怒涛のような乱舞が始まります。それは、何もかも忘れて踊り明かすカーニバルの情景でしょうか。そんな華やかな音楽が、短調で作られているのが、とても意外な気がしませんか?
 この交響曲の出来については、メンデルスゾーン自身は満足していなかったようで、何度も改訂を試みていますが結局彼の生前に出版されることはありませんでした。現在出版されている楽譜は、改訂前の初稿をそのまま印刷したものです。最近では改訂後の楽譜も発見され、それを使った演奏を実際に聴くこともできます。それは確かに、ある意味整った形を持っているものではあるのですが、なぜかそこからは初稿にあった意外性のようなものが消え去っていて、音楽としての勢いがなくなっています。そんなところに、メンデルスゾーンの音楽の秘密があるのかもしれませんね。
 正直、メンデルスゾーンは私の守備範囲外、ということで、次回は3月にシューベルトですが、その時には、もっと的確なコメントが書ける人にお任せした方がいいような気がします。
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by jurassic_oyaji | 2015-07-24 21:13 | 禁断 | Comments(0)