おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
Silver Bow
c0039487_20563099.jpg


Katherine Bryan(Fl)
Jac Van Steen/
Royal Scotish National Orchestra
LINN/CKD 520(hybrid SACD)




ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団の首席フルート奏者、キャスリン・ブライアンの3枚目のソロアルバムです。タイトルの「銀の弓」というのがこのアルバムのコンセプトを表しているのでしょう、オリジナルはヴァイオリン・ソロのための作品だったものをフルート・ソロで演奏するという企画です。つまり、ヴァイオリンの「弓」を、銀製のフルートに持ち替えて、というような意味なのでしょう。確かに、ブライアンの楽器はリッププレート以外は銀で出来ているようですね。
最初の曲は、ヴォーン・ウィリアムズの「揚げひばり」です。この曲のヴァイオリン・ソロをフルートに置き換えるというのはいったい誰のアイディアだったのでしょう。確かに最初からソロで出てくるカデンツァの音型は、もしかしたらヴァイオリンよりフルートの方がより適しているのではないかと思えるほど、ここでのブライアンの演奏は冴えています。同じ作曲家の「グリーンスリーブス幻想曲」などではフルートに大活躍をさせているのですし、そもそもこれは鳥の声なんですからヴァイオリンよりフルートの方が「鳥っぽく」聴こえるはずですよね。さらにブライアンは、部分的にヴァイオリンより1オクターブ低い音域で吹くことによって、よりフルートらしさを発揮させています。
パガニーニの「カプリース」も、よくフルーティストが吹いているヴァイオリン曲です。ここでは、ヴァイオリンでしかできない「重音」という、10種類の音を同時に出す奏法(それは「十音」)などの技をどのようにフルートで再現するかということが問題になりますが、その点についてはブライアンの場合は、例えばガロワのような本物の「重音」(フルートの場合は、ちょっと気持ち悪い音になります)を使うというような無茶なことはやってはいません。ただ、彼女は「キー・クラップ」(キーを叩いて音を出す奏法)といった、逆にフルートでしかできないことを使って、新たな表現を目指しているようです。
ただ、やはりヴァイオリン曲としてのイメージが強い曲については、どんなに頑張ってもオリジナルには勝てないな、というところが出てきてしまいますね。マスネの「タイスの瞑想曲」とか、クライスラーの「愛の悲しみ」あたりのシンプルな曲が、そんな感じ。フルートの場合はどうしても存在感がヴァイオリンには太刀打ちできないのですよ。ブライアンの場合。
そう、ついそんな風に感じてしまうのは、いまから40年ほど前に録音されたジェームズ・ゴールウェイの同じようなレパートリーのアルバムでは、そんな劣等感などは全く抱くことはなかったからです。要は、フルーティストの技量と音楽性の問題、あのころのゴールウェイの演奏を聴いてしまった人にとっては、どんなに指が回ろうが、細かい音符を粒立てる技に長けていようが、常に不満感が伴ってしまうのは致し方のないことです。
最後の曲、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」のように、あまりにもオリジナルの印象が強く刷り込まれている場合には、まずヴァイオリン以外で演奏するのは不可能のように誰しもが思ってしまうことでしょう。さすがのゴールウェイも、この曲までは録音していません(ガロワは吹いていますけどね)。それに果敢に挑戦したブライアンはあえなく討ち死に、と思われたのですが、意外と健闘しているのにはさすがです。彼女の得意技「キー・クラップ」でピチカートの部分を模倣しているのは、まさに目から鱗といった感じです。ただ、ピチカートを全部それに置き換えるのではなく、部分的にしか採用していないので逆にストレスが溜まってしまいますが。
録音に関しては、このレーベルのSACDでは決して裏切られることはありません。今回も、「揚げひばり」の最初の弱音器を付けた弦楽器の響きは極上ですし、フルートの音も等身大で、息遣いの細かいニュアンスまでがはっきりわかるリアルさがあります。

SACD Artwork © Linn Records
[PR]
by jurassic_oyaji | 2015-08-10 20:59 | フルート | Comments(0)